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僕と彼のイルミネーション
第3章 不協和音
真琴に落ち込む事があったのが分かるかのように、龍も拓海も何も訊かないまま。
龍はフライパンで何か炒め、皿に盛った物と取り皿をカウンターへ置く。
「サービス。他の客には内緒だぞ」
拓海がそれを、真琴の前へ出した。
「ありがとう……」
真琴は箸を持ったが、食べずにそのまま箸を置く。
「瑞希、看板出して来いよ。コンセント、差すんだぞ」
拓海に言われ、返事をしてからカウンターを出た。
看板は結構重いが、何とか外へ出す。入口横の下にあったコンセントに差し込むと、ネオンが光り出した。
見上げると、店全体のネオンが点く。中でスイッチを入れたんだろう。
暮れ始めた街で、それが凄く綺麗に見える。
「始まったの?」
三人連れに訊かれて頷いた。
ドアを開けるのを見て、「いらっしゃいませー」と中に聞こえるように言う。僕も後から入り、カウンターの中へ。
「いらっしゃいませー」
言いながら、龍がすぐにボトルを出す。
「お前、もう行けるよな?」
「う、うん……」
嫌じゃないが、緊張する。
何故か拓海は、真琴の隣へ座ったまま。土曜日は、動く拓海の後を真琴が追いかけていたのに。
不思議だと思いながらも、カウンターの隅にある保温器からおしぼりを三つ出して席へ向かった。
「いらっしゃいませ」
「新人だよね? 名前は?」
暫くは、この質問が続きそうだ。
龍が用意してくれたボトルなどを運び、自己紹介をしながら水割りを作る。
カウンターへ戻ろうとしたら、龍に席に着くように言われた。
頭を下げてから、空いている椅子に座る。
質問が多かったが、話すのは楽しかった。
「いらっしゃいませー」
龍と拓海の声が聞こえ、僕も言ってからおしぼりを取りに行って出す。
新しい客にまた自己紹介しながら水割りを作ると、すぐに次の客。
今まで、こんな事を二人でやっていたんだろう。まだ慣れないせいだが、忙しすぎる。
カウンターにも客が座るようになると、拓海がカウンタ―へ入った。龍は席を周り、接客をしている。
龍に指示され、僕も別の席へ着いた。