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僕と彼のイルミネーション
第5章 涼介
「傷。イタリア語だよ」
「傷……」
どうして、そんな店名にしたんだろう。
開店した21歳の龍は、心に傷を持っていたのかもしれない。
「お先―」
真琴の声に、それ以上訊くのをやめた。
「お前も入って来いよ」
「うん」
真琴は鞄の中の袋に換えた下着を入れると、部屋へ戻る僕に着いてくる。
「え?」
「ドライヤー貸してよ」
部屋へ入ると、真琴はすぐにドライヤーを手に取った。
本当にこの家を知り尽くしている。
「シャワー浴びてくるね」
僕は着替えを出しながら言ったが、ドライヤーを使っている真琴には聞こえなかったよう。
仕方ないからそのままシャワーを浴びに行った。
僕の後に龍がシャワーを使い、三人でリビングのソファーに座ってテレビを眺める。
「マコちゃん。帰んなくていいのか?」
「ん。一緒に店に行って、呑むから」
「今日は、二十一時までに帰れよ。明日も大学だろ?」
真琴は頷きながら、テレビを観ている。
「この手術ってさ、実現するまで、十年とかかかるよねー」
テレビのワイドショウでは、何か医学の話題。僕には全く分かない。
「まだ実験段階じゃ、そうだろうな」
龍も真面目な顔付きでテレビを観ている。
「えっと。涼介さんも含めて、三人の大学ってどこ?」
「オレ? 医学部」
サラリと言う真琴に驚いてしまった。
「医学部……? 医者に、なるの?」
「んー。面倒くさそうだからなあ。一応入ったけど、他の学部の方が良かったなー。六年もあるし」
死にそうになっても、真琴だけには診てもらいたくない。
「俺も、入るには入ったけど……。医師なんて向いてねえし」
龍にも、適当に処置されそうな気がする。
「そろそろ行くか。マコちゃん。呑み始めるのは、十八時からだぞ」
「はーい」
真琴の返事が合図になったように、三人で立ち上がった。
店に着くと、真琴まで同じエプロンで掃除をしている。
「大学辞めて、オレもここで働こうかなあ」
「ダーメ」
それだけ言って、龍は仕込みを続けていた。
ドアが開いて、入って来たのは拓海。
「マコちゃん。何してんだよ」
「一時間だけ、無料のバイトー」
「昨夜は、龍のとこ泊ったのか」
真琴が頷く。
「瑞希と一緒に寝たんだー」