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僕と彼のイルミネーション
第5章  涼介


「だろうな……」
 拓海もエプロンをして、テーブルを拭いてから仕込みに回った。
 四人いると早い。やはり、もう一人増やすべきだ。
 真琴はエプロンを外してカウンターの隅に座っていたが、ソファーに座る僕達と話をしていた。
「そろそろ、看板出すか」
「僕がやるから」
 龍より先に立ち上がる。
 新人の仕事だと思ったし、看板や店のネオンが点くのを見られるのは開店の時だけ。
 それを見ると、目覚めた時よりも、一日が始まる感じがした。
 看板を運び、コンセントを刺す。少しして店全体が明るくなり、“フェリータ”というネオンがくっきりと浮かび上がった。
「傷……」
 店名を見つめて呟き、中へ戻る。
 すぐに入って来たのは、涼介。
「いらっしゃいませー。あっ、涼介か」
 拓海がカウンタ―へ来たから、龍はまだ座ったまま。
「マコちゃん。何度も連絡したのに。電源切っただろう」
 言いながら、涼介は真琴の隣へ座った。
「いらっしゃいませ」
 アイスとミネの準備をしていると、拓海がボトルを出してくれる。
 水割りを作るのも、手際が良くなってきたと思う。
「カンパーイ」
 真琴がグラスを差し出すと、涼介は渋々というようにグラスを合わせた。
「今日は、早く帰るからな」
「ん。龍にも言われたー」
 龍が頷いている。
「まったく……。レポートは出来てるのか? 期限は金曜だぞ?」
「忘れてた……」
「資料を、パソコンに送っといたから。自分の言葉で書き上げろよ?」
 真琴が笑顔で涼介の肩を叩く。
「さっすが涼介―」
「いらっしゃいませー」
 龍が立ち上がり、客を席に案内する。
 客の顔を見た拓海が、すぐにボトルを出す。
 顔と名前を覚えなければ、ボトルは出せない。カウンターに座る常連客なら少し覚えて来たが、全員はまだ無理。
 人が少ない田舎町なら、全員の顔と名前も分かったが。
 拓海が席に着くと、真琴が立ち上がる。
「悠……」
 真琴が途中で言葉を切ったのは、涼介が腕を掴んだから。
「涼介。何だよ」
「大人しく座ってろ。席を回ると酔うから」
 いつも涼介は、真琴を自由にさせているのに。


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