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僕と彼のイルミネーション
第7章 写真
「いらっしゃいませー」
「いらっしゃいませ……」
営業が始まっても、あの少年の事が頭から抜けない。
「ボーっとしてんじゃねえよ。ミネって言っただろ?」
カウンターへ来た拓海に、怒鳴られてしまった。
「はい。すいません……」
急いでミネの栓を抜き、カウンターに置く。
龍はどこかから直接店へ来て、僕も1人での出勤。
さっきもグラスを割ってしまい、拓海に怒られたばかりなのに。
「どした? 具合でも悪いのか?」
カウンターで調理をしていた龍が額に触ろうとしたから、つい逃げるようにしてしまった。
「どした……?」
「ううん……」
目を合わせないまま言い、客の水割りを作りに行く。
偶然龍に会い、仕事と住まいが出来たと喜んでいた。でも僕を誘ったのは、あの少年に似ていたからだろう。それだけなら、ラッキーだとも言える。
でも、犯されたのもそのせい。
そんな事を考えもせず、僕は優しい龍を人間として好きだと思ってしまった。
犯したのは、酔っていたせい。龍はそれだけで片付けようとしている。あの夜は、無かった事に。
龍の部屋に入らず、あの写真を見なければ、僕は今でも龍を好きでいられたかもしれない。
別れた恋人の代わりにされたと知った今は、屈辱的だった。
小柄で弱いし安心しているから、何をしても平気だと思われたのもあるだろう。行く所も、仕事も無かったし。
実際に今僕は、この店から離れられない。
「具合悪かったら、早退してもいいぞ」
調理をしながらの龍が言う。
早退しても、帰るのは龍のマンション。店が終われば、彼が帰ってくる場所。
せめて真琴と涼介でもいれば、少しは気が晴れるのに。この前、もう土曜日にしか来ないと言っていた。
「いらっしゃいませー」
拓海の声が聞こえ、6人の客が入ってくる。2つのテーブルを着け、そこに案内している。
「カウンター頼む。つらくなったら、すぐ言えよ」
龍の言葉に無言で頷き、客の前では笑顔を作った。
カウンターには、まだ客が1人だけ。僕だけでも充分だ。
客と接するのは、嫌じゃない。話をしていた方が、日常を忘れられる。
「瑞希くん。ジュース飲みなよ」
「はい。いただきます」
ジュースを作り、客と乾杯した。