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僕と彼のイルミネーション
第7章 写真
週に2回ほど来る、“和さん”という客。本名は知らないが、“マコちゃん”みたいにあだ名で呼ばれている。
“さん”が付いているから、僕も呼びやすい。
「パソコン仕事だから、家でやれば、出社しなくてもいいんだよ」
「そうなんですか。いいですね」
和さんと話していると、怖い表情の拓海が来る。
「瑞希っ。アイスって言ってんだろ?」
また、拓海に怒られてしまった。
でも今は、話に夢中で聞こえていなかっただけ。
「すいません……」
すぐにアイスを用意してカウンターへ載せると、苛立つような拓海の溜息。
「2つって言ってたんだけど? さっきから何度も」
「すいません……」
慌てていると、龍がカウンタ―に入って来た。
「お前、今日は帰れ。疲れが溜まる頃だから……」
俯いて首を振ったが、龍にエプロンの結び目を外されてしまう。
「悪いね。和さん。こいつ、昨日から調子悪くて」
そんな嘘を言い、僕を奥へと押す。
「瑞希くん。それなら、帰って休んだ方がいいよ」
和さんに頭を下げてから、奥の部屋の鞄を取ってくる。
「ちゃんと、タクシーで帰るんだぞ」
「うん……」
もう1度和さんに頭を下げてから、各テーブル席へも頭を下げて店を出た。
振り返ると、煌びやかな店のネオン。
フェリータという文字が、その“傷”という意味が突き刺さるように感じる。
意味は解りづらいとしても、呑み屋なら、もっと明るい意味の言葉にするのに。何故龍は、敢えて“傷”なんて店名にしたのだろう。
「なーにしてんだよ。怒ってるわけじゃねえから。今日は休めよ……」
出てきた龍に言われ、止めたタクシーに乗せられた。龍がドライバーにマンションの住所を言い、代金を渡すと、タクシーが走り出す。
少し走った場所で、Uターンしてもらう。
フェリータの前を通った時、もう龍はいなくてホッとした。