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僕と彼のイルミネーション
第8章 困惑
昨日から、拓海がイライラしているように感じる。僕を怒鳴ったりはしないが、何でも雑というか適当というか。
昨日も忙しかったが、土曜日の今日が1番混むのに。
頼りの悠斗がそんなせいなのか、龍も少し落ち着きが無いように見えた。
やはり2人は恋人同士で、喧嘩でもしたのだろうか。
店が混み始めても、2人は変わらない。僕には仕切れないから、それが凄く不安。
「龍。龍? 龍っ!」
「あ?」
テーブルに着いている龍は、何度か呼んでやっと来てくれた。
「ボトルお願い。はーい。すぐ行きます。あっ、いらっしゃいませー」
カウンタ―客からは、新しいボトルの注文。席からはつまみの注文らしく、声がかかる。入って来たのは、真琴と涼介。
予約席だったカウンターの隅へ座った2人に、手を合わせた。
「真琴さん。今日だけ、手伝ってもらえる? 涼介さん、いい?」
知り合いの2人なら頼みやすいし、最後の望みという感じ。
「何か、あったの?」
「解んないけど、2人とも変で……」
龍と拓海の様子を見た2人が立ち上がる。
「真琴と瑞希はテーブル席。出来るよな? 俺がカウンタ―に入るから」
「リョウカーイ!」
「エプロン2枚貸してくれる?」
涼介に奥から出してきた予備のエプロンを渡すと、2人はそれを着けて動き始めた。
真琴は龍も拓海もいない席での接客。「今日だけバイト―」と笑っている。カウンターの中の涼介は、やたらと手際がいい。
「はい。ヘネシーですか? レミーがお勧めですけど」
僕には解らない事を言っている。簡単な物なら、調理もしていた。
「瑞希が席に着くなんて、珍しいね」
客に言われ、笑顔を見せる。
「はい。ジュースいただいていいですか?」
「ん。飲みなよ」
自分で作ろうとすると、聞こえていたのか涼介にジュースを差し出された。
「すいません……」
真琴は以前拓海に着いて席を回っていたが、涼介がどうしてカウンター内をさばけるのか不思議だった。
でも今は、そんな事を訊いている余裕もない。
すぐ席へ戻り、客達と乾杯した。