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僕と彼のイルミネーション
第1章 繁華街
「可愛いじゃん。付けてよ」
「瑞希はまだダメ。まだ見習いだから」
おしぼりを出した龍の言葉に、ホッとする。
いきなり客の席に座っても、何を話したらいいのか解らない。それに、お酒だってどう扱っていいのか知らなかった。
「それ、洗っとけよ」
ボトルを持った拓海に言われ、洗い物を始める。
洗い物も初めてに近い。家では母親がやっていたし、学校の調理実習では、女子が率先してやっていた。
「いらっしゃいませー」
また、新しい客。今度は二人。
龍と拓海が手際よく席へ案内して、ボトルなどをセットする。それから拓海は最初の客の席に着き、水割りを作っていた。
「大丈夫か?」
カウンターに入ってきた龍に訊かれ、頷いて見せる。
彼は調理をしながら、色々と教えてくれた。
氷の事は、アイス。ミネラルウォーターはミネと言う。声がかかったら、それをカウンターへ乗せるようにとも。
「段々慣れるから」
龍は出来上がった皿を持って行ってしまう。
調理で出た洗い物を続けていると、拓海から「ミネ」と声がかかった。
後ろにあったミネをカウンターへ載せると、取りに来た拓海に睨みつけられる。
「ミネは二本ずつ。栓も抜けよ」
「はい……」
急いでもう一本出し、近くにあった栓抜きで開けようとした。
「何やってんだよ」
栓抜きが上手く行かない。こんな物を使うのは、殆ど初めて。
「貸せよ」
拓海に栓抜きを渡すと、すぐに蓋を抜き持って行く。
ペットボトルにしか馴染みがないから、拓海がやる様子をちゃんと見ておいた。次は大丈夫なはず。
時間が遅くなるほど店は混み、満席で帰る人までいた。平日なのに、大繁盛だ。
客は若い人ばかり。カウンターもいっぱいだが、客からの質問に答えるのがやっと。
たまに龍が来て客の水割りを作っていたから、見様見真似で作っていた。
「新人だから、虐めるなよー」
龍が笑顔で客達に言うと、客達も笑っている。
雰囲気はいいと感じた。
「ありがとうございましたー」
客が帰る度、洗い物がどんどん持ち込まれる。でも、やっているうちに慣れてきた。
僕にとっては戦争のような営業時間が終わり、龍がソファーへ座って煙草に火を点ける。