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僕と彼のイルミネーション
第8章 困惑
月曜。開店準備の掃除をしていると、拓海が出勤してくる。
「おはようございます」
そう言うと、拓海にいきなり襟を掴まれた。
「お前なあ……」
「拓海っ。やめろよっ!」
仕込みをしていた龍の言葉に、拓海が手を放して奥へ行く。
拓海は、まだ土曜日の喧嘩を引きずっているのだろか。龍にも挨拶をしない。
「あっ、2人共。先月の給料だぞー」
拓海が出てくると、龍は奥から2つの袋を持って来た。
「拓海」
「どうも……」
軽く頭を下げると、拓海はまた奥へ置きに行く。
「瑞希の分。途中からだから、少ないけどな」
「ありがとうございます」
拓海と入れ替わりに奥へ置きに行った時、中を見てみた。20万近くもある。鞄にしまってから、龍の所へ行く。
「あんなに?」
「2人共、少しだけど夏のボーナス付き。瑞希は、時給1300になったから」
これなら、マンションを借りられるのも近いかもしれない。
「瑞希に甘いな……」
テーブルを拭きながら、拓海が呟く。
「瑞希だって、もう客を持ってるだろ?」
「え?」
「お前目当てで来る客もいる、ってコト。ヘンな意味じゃねえけどな」
呆然としてしまった。
まだ失敗もある僕を、気に入ってくれる客もいる。それは正直嬉しかった。時給の為じゃなくても、もっと頑張りたいと思う。フェリータの一員として。
「看板出すぞ」
グラスを磨きながらボトルの銘柄を覚えていると、拓海が行ってしまった。いつも僕の仕事だったのに。
この店では、手の空いている者が仕事をする。そんな決まりも解ってきた。
「いらっしゃいませー」
3人の客と一緒に、拓海が入ってくる。
さっきまでは機嫌が悪そうだった拓海も、客が来れば営業の顔。
「ここは、店員選べるの?」
初めての客のようだ。
「ウチは指名出来ませんよ。勿論、買う事も」
龍が言うと、話し合った客が帰って行く。
「そうゆう店も、多いからな……」
「ふざけんなよっ」
拓海はドアを蹴っている。
健全な店で働けて良かった。何も知らない僕は、体を売るような店で働いていたかもしれない。
給料はもっと多いだろうが、そんな事をしてまで稼ぎたくはなかった。