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僕と彼のイルミネーション
第8章 困惑
月曜の早い時間は割と暇。金土が忙しかったせいで、余計楽に感じる。
テーブル席はまだ2組なのに、カウンターには3人の客。それも、連れではない。
「瑞希くんも飲もうよ。ジュースでいいから」
「ありがとうございます」
洗い物の手を止めて、ジュースで乾杯。
「瑞希は、帰省しないの?」
「はい。遠いし……」
「瑞希くんっ、新しいボトル入れてよ」
次々と声がかかり、龍がカウンタ―へ来る。拓海は2組のテーブル席を回っていた。
「瑞希、大人気だなあ」
笑いながら、ボトルを出してくれる。
「瑞希くん、可愛いから。汚れない感じでさ」
客が言うと、拓海が振り返った。
「オレは汚れてるのかよ?」
言葉は荒いが、口調は穏やか。それは客の前だけだが。
殆どの客が一緒に笑っている中、テーブル席の客1人だけが渋い表情。
「ミラージュに、いた子だろ?」
小声だったが、ハッキリと聞こえた。
「ミラージュ……?」
僕が働いたのは、このフェリータが初めて。他に知っているのは周平さんの“麗”だけで、働いていたわけじゃない。
「わりい。任せた……」
エプロンを外すと、龍が店を走り出る。
「龍っ! 待てよっ!」
怒鳴りながら、拓海も。
「え?」
従業員は僕1人。もっと客が来たり、料理の注文があったらどうしたらいいのだろう。
「あの。ミラージュって何ですか? 僕は、ここが初めてで……」
言い出した客に訊いたが、他の客も黙ったまま。
「店どうすんだよっ!」
言いながら、拓海が龍を引っ張って戻って来た。
「呑もうぜっ!」
拓海は席に戻り、盛り上げようとしている。でも、カウンターに座った龍は黙ったまま。カウンター客も、口数が少なくなってしまった。
意味が解らない。
「いらっしゃいませー」
入って来たのは、4人連れの客。
龍も営業用の笑顔に戻り、エプロンを着けて席の案内へと立つ。
“ミラージュ”。それは何なのだろう。聞いた途端、龍は慌てていた。
まだ、僕には解らない事だらけ。
「瑞希は、18歳だよね?」
「はい」
「そっか……」
カウンターの客も、何故か様子がおかしかった。