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僕と彼のイルミネーション
第8章 困惑
拓海と喧嘩していた夜の寝言は、“瑞希”じゃなくて“ヒロキ”。それもやっと解った。
龍は、僕をヒロキとして見ている。
店に誘った時からずっと、僕はヒロキの代わり。悔しかったが、仕方ない。
「誰に聞いたんだよ。拓海か? マコちゃん達か?」
「いいよ。いつでも、ヒロキの代わりにして……」
もう悩むのは疲れたし、どうでもよくなっていた。
龍は、僕に優しくしてくれたわけじゃない。思い出の中のヒロキとして、接していただけ。
今はいないヒロキへの拘りに、拓海は怒っていたのだろう。そこに、似ている僕が現れた事にも。
インターフォンの音が聞こえた。
「お前は、部屋に戻れ」
龍はリビングへて行ってしまう。
「ああ。上がってよ」
インターフォンを取った龍が言い、玄関へ行く。
リビングへ入って来たのは、若い女性の姿。
急いで部屋へ入り、内鍵を掛けた。
こんな時間に、女性が訪ねて来るなんて。また龍が解らなくなる。
2人はリビングで呑んでいるようだ。たまに、女性の甲高い笑い声が聞こえてくる。
エアコンを低めに設定し、ケットを被った。
どうして、龍と会ってしまったのだろう。
こんな風に扱われるなら、ミラージュのような店で働いても同じだ。
もう、誰も信じられない。信じたくなかった。
あんなに穏やかな周平にも、裏の顔があるかもしれない。
みんなが怖い。
この街に来てせっかく色々な人と知り合えたのに、全員が嘘の塊のように思えてしまう。
起き上がって目覚ましをかけ直し、キャリーバッグへ畳んだ服などを入れる。
女性の笑い声は気になったが、またケットを被って目を閉じた。