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僕と彼のイルミネーション
第9章 決心
「おはようございます……」
「瑞希っ!」
店のカウンターで仕込みをしていた龍が、駆け寄ってくる。
「お前今、どこにいんだよ。何で出てったんだよっ!」
今朝早くに起き、荷物を持ってネットカフェへ移った。外側から掛けた鍵は、一階の郵便受けへ入れて。
まだ拓海は来ていない。
「ヤりたくなったら、呼んでよ。マンションに行くから。店には、ちゃんと出るし……」
「そんなコト言ってんじゃねえだろ? どこにいるのかって訊いてんだよっ!」
「僕の勝手、だよね……」
拓海が出勤してきたから、何も無かったように奥へ行く。
「なんか、険悪って感じじゃん?」
拓海は気付いたようだが、仕事さえ頑張れば文句はないだろう。それに拓海にとっては、僕が龍のマンションにいな方がいいはず。
すぐに掃除を始めると、拓海も無言で仕込みをしていた。
重苦しい空気。でも、客が来れば変わるだろう。
以前龍に、何の目的で東京へ来たのかと訊かれた。その時はすぐ答えられなかったが、家を出たんだから自立する為だ。
もしここをクビにされても、店はいくらだってある。
「看板出します……」
時間になり、看板を持って外へ出た。
看板を点けると、少しして店のネオンも点く。
初めて見た時は綺麗だと思ったが、どこも同じ。汚い世界。でも僕は、そんな世界で生きて行くしかない。
「瑞希くん。こんばんは」
「あっ、和さん。どうぞ」
ドアを開け、常連の和さんの後から入った。
もうBGMも流れている。
「いらっしやいませー」
これで店は、いつもの通り。カウンターへ入り、水割りのセットとチャームを出す。
「今日は、一番乗りですね」
笑顔で話しかけながら、水割りを作って出した。僕はジュースをもらって乾杯。
営業中なら、笑顔でいられる。龍に対しても。でも、店以外では赤の他人。
元々がそうなんだから。
「僕は、パソコンはネット観るくらいです。あ、いらっしやいませー」
三人の客がテーブル席へ座る。
水割りのセットをカウンターへ置きながらも、和さんと話していた。
さすがに営業中は、龍も何も言えないだろう。
カウンターにも人が増え、僕なりに熟していく。