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僕と彼のイルミネーション
第10章 僕と彼
「おせーな-。拓海のヤツ。あっ……」
独り言の後、龍が電話をかける。
もう18時近いのに、拓海が出勤してこない。
「店にかけてみたら、周平さんもまだ出てねえってさあ」
通話を切った龍が笑っている。
拓海に電話したと思っていたのに、周平の店だったなんて。
「多分、あいつらも昨夜……」
龍が笑っていると、拓海が慌てて入って来た。
「悪い。遅くなって……」
「遅刻の理由は?」
龍がカウンタ―を出ながら訊く。
「寝坊、したんだよ……」
「拓海くーん。何で寝坊したのかなー?」
僕は準備が終わったから、ソファーに座って眺めていた。
「うるせーなっ」
「周平さんも遅刻だってさ。店に電話してみたら」
龍の言葉を無視して、拓海は奥へ行ってしまう。
もしかして、あの後拓海と周平も? 想像しそうになって、軽く頭を振った。
「俺と瑞希は、ちゃーんと出勤したのになあ。なあ、瑞希っ」
その言い方じゃ、昨夜セックスしていました、と言っているようなもの。
顔が火照ってしまう。
「初心者とは違うんだよっ」
開き直った拓海が、看板を出しに行く。入って来た時には、真琴と涼介が一緒だった。
「いらっしゃいませー」
「今日は早えな。土曜じゃねえし」
「ん。龍と瑞希が、気になったからっ」
そう言いながら、真琴がカウンタ―の隅へ座る。
「上手く収まったみたいだね」
真琴の隣へ座った涼介に言われ、また照れてしまう。
僕の決心だけじゃない。全て誤解だと解ったのは、みんなが探してくれたお蔭。マンションで待っていたこの2人だって、僕が忘れ物でも取りに戻れば、力づくでも引き留めただろう。
2人の水割りとジュースで乾杯していると、すぐに5人連れの客。テーブル席へ座り、一気に店が賑やかになる。
いつものフェリータ。
みんな色々な“傷”を抱えているかもしれない。ゲイとは関係ない事でも。
店名の意味は知らなくても、集まってくるのはみんないい人。また、そう思えるようになった。
僕の居場所の1つ。1番大切なのは龍の傍でも、居場所がもっと増えればいいと思う。
いつの間にか店は満席。でも、カウンターの仕事なら1人でも大丈夫。