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僕と彼のイルミネーション
第10章 僕と彼
ボトルの名前も覚えてきたし、何より客と話すのは楽しい。笑い声の飛び交う中、自然な笑顔で仕事が出来る。
やはり、この街に来て良かったと思う。
「瑞希っ」
「え?」
常連の和さんと話していると、調理台の前に立つ龍に呼ばれて近付いた。
「何?」
「おいっ! みんなー!!」
龍が大きな声を上げると、客全員がこっちを見る。両肩をしっかりと掴まれ、気付いた時にはキスされていた。
「んんっ……」
“龍”と言いたかったが、言葉にならない。
「……って事だから。瑞希に手え出すなよっ!」
一瞬静まり返った店内が、歓声と拍手で溢れる。
「お前、色っぽい声出してんじゃねえよ。それは、俺と2人の時だけな」
「りゅ、龍っ!」
笑いながら、龍はテーブル席へと行ってしまう。
顔が熱い。カウンタ―の中にいるから、みんなから色々と声がかかる。
“おめでとうー”や冷やかしの言葉。
真琴と涼介も笑っている。
「瑞希くん。良かったね。龍はいいやつだから。でも、ちょっとだけ、残念かな。なんて」
和さんも笑顔だった。
龍は僕目当ての客もいると言っていたけど、和さんの対象が、僕と龍のどちらか解からない。
でもこれで、みんなの公認。
この店で出会ったカップルもいるだろうが、相手を探す為の店じゃない。楽しく呑む為に、“フェリータ”は存在している。
閉店すると、拓海はすぐに帰ってしまう。
きちんと礼をしたかったのに残念だが、昨日龍のマンションを出たのは4時近く。営業中にもこっそり、何度も大きな欠伸をしていた。
龍がソファーへ座って煙草に火を点ける。
「ねぇ、龍……」
「ん?」
僕は前のソファーへ座った。
「金曜は、2人共何があったの? 真琴さんと涼介さんに、手伝ってもらった日……」
「ああ、アレか……」
溜息と一緒に煙を吐き出すと、龍がテーブルに肘を着く。
「聞いたんだよ、客から。お前と周平さんが、ラブホ街の方へ行ったって」
「そんな事……」
僕には、全く覚えが無かった。