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舞い降りた天使
第1章 レモングラス
その日の翌朝


「お母さん」

「ん?」

「パパ、今日も遅い?」

「ん〜どうかな〜」

「お母さんは?今日もお迎え遅い?」

『お迎え遅い?』…それは桜の口癖

「ううん、昨日お仕事いっぱいしたから
今日は早めにお迎え行けるよ。
帰りにスーパー寄って帰ろうか」

「うん!」

桜の笑顔を見ていると
昨日泣いてしまったことなんて忘れて
また頑張ろうと思えるから不思議だ

「じゃ、いってきま~す」

「はい、いってらっしゃい」

桜が玄関のドアを閉めると
窓から外の様子を見るのが
私の癖

しばらくすると
桜がアパートの階段を下りて
友達が待っているところまで
走っていく後ろ姿が見える


こうして毎日
桜が笑顔で学校に行ってくれる

それだけで
幸せだ


窓から
大きなランドセルと
小さな桜を見送ると
私は急いで身仕度を済ませて
会社へ向かう

それは
なるべく早く出勤して
なるべく早く帰るため


職場に着くと
たいていはまだ
誰も出勤していなくて
二時間くらいは私ひとり

今日も職場のドアを開けると
誰もいなくて
フロアはしんと静まり返っていた


さ、頑張ろ!


そう心の中で呟いて席に座ると
私のキーボードの上に
小さな袋が置かれていた

そしてその袋には
小さな付箋が貼り付けてあった


『ハーブティー
(レモングラス)
置いておきます。
よかったらどうぞ。栗原』


栗原くん…
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