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最後の恋に花束を
第8章 大学最後の冬
「 … そう、ごめん。臭い? 」
『 うん、酒臭いね 』
彼は遠慮無く言葉を放つ。きっと私には出来ない事。私はチラリと彼を見て苦笑いを零した。
『 可奈もそんな呑む事あるんだ 』
物珍しそうに私を見る彼は、今まで通りの彼で。
何一つ変わっていない。
綺麗な肌も、パッチリとした瞳も。
すらりとした体型も。
「 … 呑まされちゃって 」
苦笑いをしたままの私は、意を決して言葉を発した。本当は昨日の事を思い出すだけでも、吐き気に襲われそうだった。
『 … まーた男遊びでもしてんの? 』
陽気に、嘲笑う彼。
「 … ちがうよ 」
彼のその声と表情に、いとも簡単に心が折れてしまう。苦笑いしたままの私は涙が溢れそうになり、顔を隠して洗面台に向かうと冷たい水で顔を洗った。
蛇口の水を止めると、昨日の出来事が蘇る。濡れた顔を下に向けたまま涙を堪えていた…
… その時
ふんわりと彼の香りに包まれた。
どうやら後頭部から大きなタオルを被せられたようで、視界がタオルで妨げられる。
「 … えっ、なに 」
『 … 話して 』
「 何を… ? 」
『 誰と呑んでたの 』
淡々とした口調で彼は続ける。
少しだけ苛立ちが混じったその口調は、まるで嫉妬心を露わにしている様にも感じた。私は濡れたままの顔をタオルに埋めると、口を開いた。
「 … バイト先の子と 」
『 他には? 』
「 … バイト先のお客さんと 」
『 男? 』
「 … うん 」
背中に突き刺さる彼の声は、近くもなく遠くもなく。けれど彼の香りに包まれているせいか、私の心は少しずつ安心感を取り戻していくのが分かった。