この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
最後の恋に花束を
第2章 高校一年の夏
「 どっ、どこ行くつもりっ… 」
『 ここ。こーこ。』
ジャラッと金属音がすると、遙は空いている方の手で鍵を取り出した。その鍵にはネームプレートがぶら下げてあり " 書道室 " と書かれていた。
「 今日はお休みだって… 」
『 自主練だよ自主練 』
「 かっ、書くの?」
『 一ノ瀬が、な 』
そう言うと彼はニコリとしながら私の方を見る。早足で歩いているようには見えない程、穏やかな笑顔をしていた。
『 あれ、遙、なにしてるの。』
書道室に向かう途中後ろから女性の声が聞こえ、早足で歩いていた私達は立ち止まり振り向いた。そこには、綺麗な女性… 遙の彼女のユミが少し怒ったような顔をしながら立っていた。
『 おーユミ。ごめんな今日は部活あるんだ 』
和かな表情のまま彼はそう言うと、組んでいた腕を離し私の肩に腕を回した。突然の彼との距離感に思わず肩が竦む。ましてや彼女の目の前でこんな堂々と。 私の心臓は恐怖で高鳴っていく。
『 遙、部活してたの?』
強い口調で彼女は口を開く。
私の心は、息がつまるほどに固まっていた。
『 いや?今日は見学。』
『 そう… 』
彼女の視線が、私と遙を行き来する。その後彼女の視線は廊下の床へと向けられて、怒りと哀しみが混じり合っているのが感じ取れた。
『 あんまりその子に迷惑かけないようにね 』
彼女は伏せ目がちのままそう呟くと、振り向き背中を見せてあっさりと去っていってしまった。怒っているようにも、哀しんでいるようにも見えたが、女子の肩に腕を回す遙の姿を見慣れているようにも感じた。