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最後の恋に花束を
第7章 大学二年の夏
『 何、どうしたの 』
隣に座るなり立ち上がる私を不思議に思ったのか、彼は私に視線を向けた。
「 ちょっと… 喉乾いちゃって 」
そう言いながら、私は冷蔵庫の扉を開ける。
『 一ノ瀬はまだ眠くないよな? 』
「 んー? まあ、まだね? 」
このリビングには私と彼の二人だけなのに、彼に名字で呼ばれる事に違和感を感じる。
簡単に、名前を呼ぶくせに…
『 じゃあ、俺も飲むからさ。それで乾杯しようぜ 』
彼が冷蔵庫の中を指差す。昼間、海で飲もうと思った酎ハイ缶が、数本残っている。
「 ハルくんまだ飲むの? 」
『 だって一ノ瀬、飲めるっしょ? 』
夕飯時にお酒を遠慮したのを思い出す。
後輩の彼に会ってから少し気が沈んでしまい、居酒屋でも気が進まず烏龍茶を飲んでいた。
「 … じゃあ 一本だけね 」
そう返事をして、二人分の酎ハイを手に取ると冷蔵庫の扉を閉め、彼が座るソファへともどる。その頃には、早くなった私の鼓動は落ち着いていた。
『 おつかれーい 』
缶を開けて カチンッ と乾杯すると、彼はゴクゴクと喉を鳴らしながら勢いよく飲む。それを見て私は笑いながら、ふた口飲み込んだ。
『 いやー 喉乾いてたんだよ 』
「 そうだったの? 」
『 もう、カラカラ 』
「 もっと早く言ってくれれば良かったのに 」
笑いながら彼と言葉を交わす。その後割と話が弾み、いつも通りの私たちだった。少しの距離を開けてソファに腰掛けたのが、正解だったのかもしれないと思い、彼との間に空いた空間に目を落とす。
手にしていた缶の中身は、あっという間に無くなってしまっていた。