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最後の恋に花束を
第7章 大学二年の夏

「 … だっ、だめっ 」

甘い誘惑を振り切るため、私は遙の肩を掴み身体を離そうとする。けれど遙の身体は離れるはずもなく、彼は悪戯な笑みを浮かべている。

しかし数秒後、彼の表情がゆっくりと変っていくのが分かった。


『 … 本当に、ダメ? 』


彼がその言葉を発した瞬間に、彼の表情から一気に笑顔が消え、瞳が冷たさを帯びていく。腰を押さえていた力も一気に抜け、私の身体はするりと彼の身体から離れた。

思わず体勢を崩した私は、ガタッ とソファから滑り落ちる。私の心臓は激しく高鳴っていた。


『 おいおい、大丈夫? 』


遙は身体を起こすと、私に手を伸ばした。視界に彼の手が見える。けれど、彼の顔を見る事が出来ない。

冷たい彼の瞳が、脳裏に焼き付いて離れない…

彼の考えていることが…

全く分からない …

私は一体どうしたら …ー


『 可奈? 大丈夫か? 』


固まっていた私を心配したのか、彼は私の目の前で膝を付いて顔を覗き込んだ。私の視線は自然と彼をとらえる。

そこにいた彼は…
あの冷たい瞳の彼ではなかった。

不安そうな顔をして、まっすぐに私を見つめている。

暖かい優しい瞳をしていた…ー


「 あっ… ごめん、ボーッとしてた 」


ハッとした私は、苦笑いしながら立ち上がる。彼から視線を逸らして、先程飲み終えた空き缶を手にすると流し台へと移動させた。


「 もう遅いし、寝よっか? 」


平然を装いながらも、苦笑いで彼を見る。
彼はただただ真っ直ぐに私を見ていた。


『 おー、じゃあ俺先行ってる。』

「 うん 」


ニコリと笑った彼に、私も愛想笑いをする。
それを見た彼は私に背を向けると、寝室へ入った。


静まり返るリビング


まず自分自身が落ち着こう…ー
そう思った私は、お手洗いと歯磨きを済ませ冷たい水で顔を洗った後、彼らが眠る寝室へと向かった。

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