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エメラルドの鎮魂歌
第5章 青い鳥の唄
「…え?」
その言葉に、思わず息を呑んだ。
「あんたは、裕福な伯爵家の子どもじゃないのか?」
…英国に留学し、海外で成功を収めた家柄の良い優雅な紳士…。
何不自由なく生まれ、育って来たのだと信じて疑わなかった…。

「…私を産み落とした母は、産後の肥立ちが悪く亡くなってね。看病していた友人の芸者が困り果てて、母を囲っていた私の父に会いに来たんだ。
折悪く父の伯爵は不在で、伯爵夫人がそれを聞きつけてしまった。
夫人は自分をその赤ん坊の元に連れて行くように言った。
…愛人の子どもに良い感情を持つはずもない。
友人は恐る恐る私を夫人に引き合わせた」
「…それで…どうなったんだ?」
藍は固唾を飲んで次の言葉を待った。

青山は慈しみ深い眼差しで、藍を振り返った。
「…夫人は…いや、青山の母は泣いている私を抱き上げて、こう言ったそうだ。
…まあまあこんなに痩せ細って可哀想に…。
さあ、家に連れて行きますよ。
あらまあ、この子の器量良しなこと!
兄弟一のハンサムさんかもね?旦那様に似なくて良かったわ。
…そう言って無邪気に笑ったそうだよ」

藍は目を丸くする。
「嘘だ…!そんな人の良い正妻がこの世にいるもんか!」
「私もそう思うよ。青山の母は無邪気な女の子がそのまま中年になったようなひとでね。
…私は奇跡のように幸福な子どもだったのだと思う。
母は、私に惜しみない愛情を与えてくれた。それを見て青山の兄達も、私を可愛がってくれた。
…愛は広がるものなのだ。
だから私は大人になるまでずっと、愛人の子どもだとは知らなかった。
知らされて、どうして私をそんなにも愛してくれたのかと、母に尋ねたよ。
…母は笑ってこう言った。
泣いてるあなたは本当に可愛くてね。…この赤ちゃんを死なせてはならないと心に決めたのよ…と。
…それから…こんなに可愛い赤ちゃんを遺して亡くなったあなたのお母様は、どれだけ心残りだったでしょうと心が痛んでね。…だから私があなたのお母様の分まで大切に育てようと思ったの…と」

聞いている藍の目元が潤んでいた。
声を詰まらせ、わざと露悪的に言う。
「…随分おめでたい奥様だな。…まるで、あんたみたいだ」
青山は愉快そうに笑った。
そして、しみじみと呟いた。
「そうなら嬉しいよ。何しろ青山の母は、私にとって理想の女性だ。
…あんなに優しく寛容な女性を、私は他に知らない」



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