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エメラルドの鎮魂歌
第5章 青い鳥の唄
「…どうしたの?嵯峨先生。
疲れた?少し休む?」
気遣わしげに尋ねる郁未に、首を振り微笑む。
「いいや、大丈夫だよ。
…ねえ、藍。藍はこれからの進路をどう考えているの?」
「俺?俺は学院を卒業したら奨学金で大学に行く。
その為にうんと勉強するよ」
普段はあまり口数が多い方ではないが、郁未とはよく話してくれるのだ。
「藍は努力家だからね。きっと叶うと思うよ。
…絵はどうするの?専門的に続けたいとは思わないの?」
藍は即座に首を振った。
「絵の勉強は金がかかる。俺は趣味で描いていけたらいい」
「…そう…」
…藍は少年ながら冷静に物事を捉え、客観的に考える性質なのだ。
幼少期に辛酸を舐めて育ったせいか、現実にならない夢を見ないのだろう。

藍にとっての絵は、決して趣味などという長閑なものではないことを郁未は知っている。
藍は浅草のスラム街に窃盗集団と半ば脅されるように暮らしていた。
郁未と鬼塚が彼を救い出した時も、がりがりに痩せ細りながら、ぼろぼろのスケッチブックと短い使い古した鉛筆を大切そうに握りしめていた。
…藍にとって、絵は生きることなのだ。

「…まだ時間はある。
藍の大切な人生を、皆んなでゆっくりと考えていこうね」
そう郁未が優しく声を掛けると、藍は嬉しそうに…眩しそうに笑い返したのだった。


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