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エメラルドの鎮魂歌
第5章 青い鳥の唄
「…そうか。藍はそんな風に考えているのか」
院長室で、鬼塚が腕を組みながらしみじみと声を漏らした。
「うん。…あの子は大人だよ。
僕たちを頼ろうともしないし…。
ねえ、鬼塚くん。…藍を…」
鬼塚が鋭い眼差しで、椅子から立ち上がる。
「まて、郁未。俺たちは藍だけを特別扱いする訳にはいかないんだ。
他の子どもたちも大学に進学させてやりたい。
子どもたちには平等にチャンスを与えなくてはならない」
「…分かっているよ。
でも、藍には絵の才能がある。
何とかそれを伸ばしてあげたい。
…僕たちができることは限界がある。
青山様が援助して下さると言うのなら、それをお受けしても…」
「郁未!」
鬼塚が郁未の腕を掴む。
気色ばんだ声で続ける。
「お前、あいつに藍を預ける気なのか⁈
あいつが藍を引き取りたいと言ったのは、藍目当てに決まっている!」
「鬼塚くん。青山様は確かに恋多き方だし、エピキュリアンな方だけれど、芯は真面目な…そして情熱家だよ。
パリでも日本でも貧しいけれど芸術の才能のある若者のパトロンになってサポートしている。
いわゆるメセナなんだ。
藍に関しても邪な思いではないと誓ってくれた。
僕は、彼の言葉に嘘はないと思う。
信じてもいいんじゃないかと思う。
それが藍の為になるなら…」

鬼塚はため息を吐いた。
「…お前は疑うことを知らないお坊っちゃま育ちだからな。
そう簡単に信用して大丈夫なのか?
俺は甚だ疑問だね」
「…鬼塚くん…」
郁未の悲しげな眼差しに、鬼塚は咳払いをし仕方なしに両手を挙げた。

「…とりあえず、藍の意思を尊重すること。
あいつが嫌なら、俺はこの件は断固として反対する」
郁未が嬉しそうに笑った。
「もちろんだよ、鬼塚くん。ありがとう!」
「…じゃあ、もうこの話は終わりだ」
鬼塚の声に甘みが加わった。
そのまま腕を引き寄せられ…顎を捕らえられる。
「…お前の唇から、他の男の話を聞きたくはない…」
「…ばか…んんっ…」
強引に唇を奪われ、抱きすくめられる。
その柔らかな唇を強引に割り、我が物顔で舌を絡める。
郁未の微かな抗議の声は、次第に甘い艶を帯び始めた…。


…嵯峨院長の秘密の恋人は、二人きりになるとため息が出るほどに野蛮で大胆なのだ…。
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