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エメラルドの鎮魂歌
第5章 青い鳥の唄
「藍様、お茶をお持ちいたしました」
青山の屋敷の執事、奥村が丁重な物腰で藍の部屋に入って来た。

藍は絵筆を止め、奥村に笑いかけた。
「ありがとう。奥村さん。…でも、様づけはやめてよ。
くすぐったいよ」
白髪の品の良い初老の執事は、柔らかな微笑みを浮かべながらも毅然と答えた。
「お言葉を返すようですが、貴方様は旦那様のご養子でいらっしゃいます。
旦那様のお子様は私にとってご主人様でございます。そのようにお呼びするのは順当なことでございます」
「…ふうん…。なんだかよそよそしくて嫌なんだけどな…」
藍がぼやくと、奥村はにっこりと笑った。
「段々とお慣れになりますよ。
…私のようなものが申し上げるのは僭越ですが、藍様には生まれながらの高貴な雰囲気と品位が備わっておられます。
…きっと亡くなられたご両親はやんごとなき方々でいらしたと拝察いたします」
「そ、そうかなあ…。
親のことは何も知らないから…よくわからないや…」

…藍が亡き篠宮伯爵家の落とし胤だと言うことは秘密にされている。
万が一漏れた場合、篠宮薫子の予期せぬ反撃があるかもしれないからだ。

「はい。私には分かります。私は貴族の方々や富裕な方々を数限りなく拝見してまいりました。
ですから高貴なお血筋の方は、お貌を拝見しただけで分かるのです。
…旦那様はきっと一目でそれをお感じになられたのでしょう」

…そして、お茶の支度を淀みなく整えると、
「…お喋りが過ぎましたね。お許しください。
どうぞごゆっくりお召し上がりください」
そう言うと美しい動作でお辞儀をし、静かに部屋を辞したのだ。



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