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エメラルドの鎮魂歌
第7章 木漏れ日の道
「わあ…!庭の奥は森なんだ!すごく広いんだなあ!」
藍が白い頬を綺麗な紅色に染め、目を輝かせた。
藍の手は、しっかりと瑞葉の手を握りしめている。
それは瑞葉を、面映ゆくも嬉しく感じさせていた。
大好きな弟、和葉とは手を繋いで歩いたことはない。
歩けないと偽っていたから自業自得なのだが、限られた空間の想い出しかない。

…本当は、和葉とこんな風に手を繋いだり歩いたりしてみたかったな。
しみじみとそう思う。

…和葉はどうしているかな…。
ふと、考える。
和葉は幼年士官学校に入学し、瑞葉は軽井沢に居を移したので、滅多に会えなくなっていた。
…元気かな…和葉…。

最近、瑞葉は考えるようになった。
…和葉は、もしかして僕の立場を慮って軍人への道を選んだのではないだろうか…と。
和葉は、とても心優しい弟だ。
瑞葉が廃嫡に追い込まれ、屋敷を追われたことに憤り、薫子に反旗を翻すために、敢えて薫子に一番痛手を与える進路を選んだのではないか…と。

…もし、そうならば…。
瑞葉の胸が重苦しく締め付けられる。
…和葉に何かあったらどうしよう…。

世事に疎い瑞葉でも、今の日本の戦況くらいは耳に入っている。
軍靴の音が喧しく、いよいよ暗雲が立ち込めていることも…。
和葉が士官学校を卒業し海軍に入隊し、実際に戦地に赴いたら…。
…和葉に…万が一のことがあったら…。

「…瑞葉…どうしたの?」
瑞葉の歩調が緩くなったのに気づき、藍が振り返る。
「暗い貌をしてるけど…」
心配そうな藍に、瑞葉は慌てて首を振る。
「…弟の…和葉のことを考えていたんだ…」
…ああ…と、勘の良い藍は合点をいかせた。
「俺と同い年の弟か。
…俺のもう一人の甥っ子ね」
二人は同時に貌を見合わせて、笑った。
藍の笑顔は陽だまりの匂いがする。
…陽性で温かく…見る人を元気付ける…。
…まるで…太陽みたいだ…。

瑞葉はエメラルドの瞳を眩しげに細めた。
「…藍さんは…少し、和葉に似ている…。
明るくて光り輝いていて周りの人を惹きつける…」

藍は驚いたように眼を見張り…照れたように肩を竦めると、力強く瑞葉の手を引いた。
「…ねえ、もっとあんたの話を聞かせて。
歩きながら…」

瑞葉は素直に頷き、藍に手を取られながら木漏れ日の差す森の小道を進んでいった。
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