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エメラルドの鎮魂歌
第7章 木漏れ日の道
「…本当にこんな広いところで、あの執事さんと二人で暮らしてんの?」
森の木立を見上げながら尋ねる。
「瑞葉の両親は?たまにはここに来るの?」
瑞葉のことに大変興味を持ったようで、矢継ぎ早に質問を繰り出す。
瑞葉はやや寂しげに首を振る。
「…お父様はまだ一度も…。お母様はたまに…でも、お母様がこちらに来ることをお祖母様は良く思われないから、滅多には来られないんです…」

藍は眉を顰めた。
「なんだよ、それ。あんたの実の両親だろう?
あのババアがそんなに怖いのか?」
自分のことのように憤る藍に、瑞葉はふわりと笑ってみせた。
「…お祖母様は僕の存在が許せないんです」
「どうして?」
「…こんな外見だから…。金色の髪に翠の瞳なんて…。お父様もお母様も…髪も眼も黒いのに…。
…お祖母様のお母様はドイツ人だったから、きっと先祖返りだろう…て。
お祖母様は自分のお母様を憎んでいらっしゃるから…だから異国の血を感じさせる僕が大嫌いなんです」

…口に出してしまうと、幼い頃の惨めな気持ちがまざまざと蘇ってくる。
…薫子に針のように鋭く冷たい眼差しで睨まれたこと…自分を出来損ないの厄介者のように扱われたこと…。
…そして…。
八雲と引き離されそうになったこと…。

今でも思い出すだけで胸が痛む。
俯く瑞葉の耳に強い声が飛び込んできた。
「何言ってんだよ。瑞葉はすごく綺麗じゃないか」
驚き見上げる藍の眼差しには、温かく…それでいて迷いのない賞賛の色に満ちていた。
「…蜂蜜みたいな綺麗な金色の髪、宝石みたいにきらきら輝くエメラルドの瞳…。
誰に似てなくてもいいじゃないか。
瑞葉はとても綺麗なんだから」
瑞葉の手を握りしめる藍の手に力が込められる。
「…藍さん…」
…藍の言葉にはひとを温め、勇気付ける不思議な力があった。
それはともすれば自分を否定しがちな瑞葉に、新鮮な驚きと…ひたひたと染み入る温もりを与えた。

「…ありがとう…」
潤んだエメラルドの瞳に照れたように笑い、藍は手を引いた。
「ねえ、あの池の方に行ってみようよ」

…瑞葉の手が不意に強張る。
「…い、池は…」
…翡翠色の池…大きな桜の樹…その根元には…

「…どうしたの?瑞葉…」
不可思議な貌をする藍に、震える唇を開きかけたその時…。

「…瑞葉様、大分冷えてまいりました。屋敷にお戻りを…」
…八雲の無機質な声が響いた。

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