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エメラルドの鎮魂歌
第7章 木漏れ日の道
翌週から週末ごとに、藍は軽井沢の屋敷を訪れるようになった。
土曜日に到着し、瑞葉をデッサンする。
藍が訪ねて来る日は、使用人には休日を与えた。
藍の存在はひた隠しにしなくてはならないからだ。
瑞葉の脚についてもだ。
…二人の秘密を知られる訳にはいかない。
数時間のデッサンや絵画の時間が過ぎると二人は庭園を散策したり、温室で長い時間談笑したりと…まるで若い恋人同士のように過ごした。
連れ立って歩く時、藍は必ず瑞葉の手を握った。
…二人でいると、まるで藍が兄で瑞葉は弟のようだった。
頼りなげな瑞葉を藍がリードし、瑞葉を笑わせ…何くれとなく世話を焼いた。
食の細い瑞葉だったが、藍がいるといつもより美味しそうに食事を進めた。
藍はその日は屋敷に泊まり、日曜の夜、青山からの迎えの車で帰宅する。
…藍が車に乗り込む時、瑞葉はとても寂しそうな表情で彼を見送った。
それは藍も同じだった。
…この美しく賢く強い少年にとって、瑞葉は生まれて初めて接する血の繋がった同年代の肉親であり、自分の芸術的美的魂を震わせる存在であったのだ。
また、瑞葉の思わず庇護欲を刺激されるような儚げで寂しげな…そして艶めいた雰囲気に、彼はすっかり魅了されていたのだ。

「また来週来るよ、瑞葉」
そう言って、車の窓越しに瑞葉の白い手を握りしめた。
瑞葉は遠ざかる車をいつまでも見送っていた。

青山は、仲睦まじい二人を遠目で見ながらこう評した。
「…二人は実に不思議な関係だ。
恋とも愛とも憧れとも…それらのすべてが当てはまるような…それらのどれでもないような…。
しかし、少なくとも彼らの間には不純なものが何もない。
…実に羨ましいね…」


八雲は、彼らを黙って見守っていた。
…その日…彼らが決定的に決別する…その日までは…。




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