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エメラルドの鎮魂歌
第7章 木漏れ日の道
「…貴方は、藍様に惹かれておられるのですか?」
熱く硬い楔を解かぬまま、八雲はその耳朶に冷たく囁いた。
「…え…?」
「…藍様がお好きなのですか?
三つも歳下の…まだ十五歳の…しかも貴方の叔父に当たられる方なのに…。
いやらしい邪な欲望をお持ちなのですか?」

瑞葉の美貌が、哀しげに歪んだ。
「…そんな…わけない…」
エメラルドの瞳から煌めく涙が溢れだす。
「僕は…藍さんが…和葉のように思えてならない…」
八雲の深い瑠璃色の瞳が僅かに揺らめいた。
「…藍さんは…和葉に良く似ている。
…太陽のように明るくて…無邪気で…そして、とても強い…。
藍さんといると、まるで和葉がそばにいるように安らげた。
…和葉は、もうここにはそんなに来てはくれないだろう…。
和葉には和葉の生活や世界がある。
…和葉が幸せなら、それでいい…」
…でも…と、白い面を上げて切なげに訴える。
「…藍さんは、僕を必要としてくれている。
彼は、僕が綺麗だ…と言ってくれたんだ。
お祖母様のいうことなんて気にするな…て…。
…僕は…とても嬉しかった…。
藍さんといると、強くなれる気がする。
…僕は…僕は、強くなりたい」

瑞葉の美しい瞳が暗く翳る。
形の良い眉が、辛そうに寄せられる。
「…僕が…もっと強かったら…お前は人を殺めることはなかっただろう。
…八雲を人殺しにしたのは…僕だ。僕の責任だ。
…だから…僕は…強くなりたいんだ…!」
堪らずに八雲はその震える華奢な身体を抱き竦める。
「瑞葉様!何を仰るのですか!
…貴方に罪はない!貴方は何も悪くはないのですよ…!」
八雲の胸の中で、瑞葉が貌を上げる。
真っ直ぐなエメラルドの瞳が、八雲を射抜く。
「…僕は…お前だけを愛している。
…そのお前の為に、強くなりたい。
だから…僕を信じて…」
「…瑞葉様…!」

雨に打たれ震える花のような唇に、八雲は万感の思いを込めて口づける。
…瑞葉に起きつつある変化を、感じながら…尚も彼を繋ぎとめたいと狂おしく思う。
この世に二人とない美しくも儚く…そして淫らで清らかな唯一のひと…。
幾度その美しい身体を抱いても、己れのものになった実感は皆無だ…。
だから、狂おしく需めてしまう…。
…捉えようもなく、遠いひと…。


…隷属されているのは瑞葉様ではなく、私なのですよ…。

八雲は胸のうちで、青山に語りかけた。
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