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エメラルドの鎮魂歌
第7章 木漏れ日の道
青山がダイニングに入ると、長テーブルの端に座っていた瑞葉が、怯えたように立ち上がった。
青山の来訪は伝えられていたはずだが、恐らく本能的に動揺したのだろう。
…白いシルクのドレスに葡萄酒色の天鵞絨の上着を着込んだ瑞葉は西洋の古典絵画のような幻想的な美しさを湛えていた。
職業柄、美には目が肥えている筈の青山でさえ、一瞬足を止めて思わず目を見張ってしまったほどだ。

…蜂蜜色の長い髪は今宵は美しく巻かれ、背中にふわりと垂らされていた。
それはいつにも増して華やかで艶めいた印象を与えていた。
燭台の灯りに照らされたエメラルドの瞳はきらきらと輝き…しかし、青山を恐れるように長い睫毛を瞬かせた。
繊細な彫刻刀で刻んだような芸術的な鼻筋…そしてそのしっとりとした形の良い唇は、可憐な珊瑚色に染まっていた。

…このように浮世離れした稀有に美しい主人に傅いていれば、狂信的な執愛に捕らわれるのも無理からぬことかもしれないな…。
青山はほんの僅か、傍らに控える美貌の執事に同情した。

「…瑞葉くん、お久しぶりだね。会えて嬉しいよ」
青山はにこやかに挨拶をして瑞葉の手を取り、その白く陶器のようにきめ細かい甲にキスをした。
「…青山様…」
万感の想いが込められて揺れる美しいエメラルドの瞳を見つめ返して、優しく頷く。
青山は、敢えて藍について触れることはなかった。

「さあ、瑞葉くん。せっかくのイブだ。
…楽しく過ごそう。美人に憂い貌は似合わない。笑ってくれ」
いつものように明るく戯けて声を掛けると、瑞葉は初めて微かに微笑った。




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