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エメラルドの鎮魂歌
第7章 木漏れ日の道
…夜半を過ぎ、外は凍えるような寒さと、雪が音もなく降りしきる一面の銀世界であった。
外灯よりも尚明るい雪灯り…。
宇宙の果てのような闇に浮かび上がる穢れない…けれど儚い雪だ…。

コートを身につけ、ソフト帽を被った青山は、扉を開け放った玄関ホールから外の情景を見つめた。

「…君は彼を、どこまで連れて行くつもりなのかな…」
独り言のように呟く。
八雲は無言であった。
「…君の愛は、どこに向かっているのだ?」
振り返る青山に、感情が読み取れない…しかしうっとりするほど美しい瑠璃色の瞳が薄く微笑っていた。

「…私にも分かりません」
青山が凛々しい眉を跳ね上げた。
吹雪のような雪が吹き込むのを淡々と見つめながら、男は静かに語り始めた。
「…私は瑞葉様がお生まれになった時から、片時もおそばを離れずに見守ってまいりました。
昔はただ、不遇なあの方の笑顔が見たい…お幸せになって欲しい…願いはそれだけでした…。
…けれど、次第にその想いは自分でもどうすることもできない執着に変わってゆきました。
あの方のすべてを我が物にしたい…何もかも奪い尽くしたい…。
…あの方が私以外の者をその視界に写すのも、私には許せなかった」

「…だから藍に二人の情事を見せたのか?」
青山の言葉は穏やかであったが、人好きのする陽性な表情はなりを潜めていた。
「藍を傷つけ…瑞葉くんを更に傷つけ、君はそれで満足なのか?
…いや、君のその度を越した執愛は何が原因なのだ?
確かに瑞葉くんは私でも気の迷いを起こしかねないほどの稀有に美しく妖しい魅力を秘めたひとだ。
…だが、それだけで冷静な君が判断を失うほどに溺れるだろうか?
…君は、何か私にまだ秘密があるのではないか?」

八雲の氷よりも冷ややかな美貌が青山を見つめた。
…一瞬…ほんの一瞬だけ、彼はその深い瑠璃色の瞳を揺らめかせた。

…けれど、直ぐにいつもの能面のように張り付いた微笑みを浮かべ、答えた。

「…いいえ、青山様。秘密などございません。
私は…あの方に身も心も囚われてしまったのです。
…狂おしい愛に雁字搦めになっているのは、私の方なのですよ…」
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