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エメラルドの鎮魂歌
第7章 木漏れ日の道
…通常、貴族の晩餐はデザートまで済むと、隣室の客間に移動し、紳士は葉巻とブランデーを愉しみ、淑女は珈琲やチョコレート、プチガトーでお喋りを愉しむ。

しかしこの館では瑞葉は酒を嗜まないので、同じダイニングテーブルで、アルコールを振る舞うのだ。

八雲が青山の為のカルヴァドスを、瑞葉には甘い杏酒を配り終えた時…。
青山がしなやかに立ち上がり、瑞葉の席まで進んだ。

何事かと訝しげに見上げる瑞葉に、青山は手にした大振りの四角い包みを差し出した。
白いサテンの布に包まれたものが、瑞葉の手に渡る。

「開けてご覧。…藍から君へのクリスマスプレゼントだ」
藍の名前を聴き、瑞葉の長い睫毛が震える。
八雲が、脚を止めた。

「…藍さんが…僕に…」
…あんなに浅ましい痴態を見せてしまったのだ…。
嫌われて、当然だ。
軽蔑されて、当然だ。
その彼が、一体何を贈ってくれたのだろうか…。

「…開けてご覧…」
優しい青山の声に励まされ、恐る恐る布を解く。

…現れたのは十号ほどのキャンバスであった。
その絵を見て、瑞葉は息を飲んだ。

…そこに描かれているのは、瑞葉であった。
背景は森へと続く道…。
二人で手を繋ぎ、歩いたあの道だ。
…アカシアの木の下、眩しいばかりの木漏れ日を浴びながら瑞葉は白いドレスに身を纏い、佇んでいる。
…天使のように清らかな微笑みを向けながら…。

「…これ…は…」
…そこには、嫌悪も悪意も侮蔑も何もなかった。
ただひたすら、穏やかな愛の眼差しで描かれた美しい尊い絵であった。
キャンバスの中の瑞葉は、こちらを見て幸せそうに微笑んでいた。
蜂蜜色の長い髪…美しいエメラルドの瞳の輝き…薔薇色の唇…。
藍の眼差しがそのまま、映し出されているかのようだ…。

…震える白い指先で、キャンバスをなぞる。
温かい…藍の筆遣いが…純粋な愛が感じられるタッチだった…。

青山が静かに口を開いた。
「藍からの伝言だ。
…大好きだよ、瑞葉。いつでも、待っているよ…と。
…君は私の手強いライバルだな」
青山は朗らかに笑った。
その声からは、染み入るような慈愛が伝わる。

「…藍さ…ん…」
涙で霞んで、絵が見えない。
自分の涙で絵が汚れるのが嫌で、瑞葉はそのままキャンバスを抱きしめた。
…そして、まるで子どものように声を放って泣き続けた。
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