この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
エメラルドの鎮魂歌
第8章 エメラルドの鎮魂歌 〜終わりの序曲〜
客間から見える庭園は、少しだけ様変わりしていた。
南側の芝生が潰され、広い菜園が造られていた。
物珍しげに眺めている和葉の背中に涼しげな声が掛かる。
「昨年から野菜作りを始めました。
馬鈴薯、薩摩芋、人参、南瓜…夏野菜はトマト、胡瓜、ナス…土や陽当たりが良いせいか、良く育っておりますよ」
驚き、目を丸くして振り返る。
「お前が菜園を?信じられない!」

澄まし顔で、バカラのグラスにブランデーを注ぐ。
「今はまだ千賀子様のご実家からご援助がございますが、このような状況下です。いつ途絶えるかわかりません。
…東京が火の海に飲み込まれるのも、時間の問題かもしれません。
とにかく、瑞葉様を飢えさせないこと…。
それが私の責務です」
グラスを受け取りながら、八雲を見上げる。
「…八雲…、変わったね。昔はそんな風になりふり構わない姿を見せたりはしなかった…。
…愛は偉大だ」
八雲は静かに微笑んだ。
「戦争は非常時ですから…。
それに、私は元々大変貧しい少年時代を送っておりましたから、このようなことは何でもないことです」
…それから…と、幾分高い温度で和葉を見つめた。
「…和葉様からのご援助も…心から御礼申し上げます。
本当に助かっております」
和葉は海軍士官の特権を存分に使い、今やどれほどの大金を積んでも買うことができないハムやベーコン、乳製品の数々、缶詰、ワインなどを瑞葉のもとに送り続けていたのだ。

和葉は陽気に肩を竦めた。
「お前にそんなに殊勝に礼を言われるなんて…。くすぐったいな。
…大したことじゃない。僕は兄様の為に何かしたいんだ。
…小さな頃は…僕は何もできなかったから…」

八雲の端正な貌に一瞬痛みのような表情が走った。
「…和葉様…私は…」
…しかしすぐに首を振り、窓辺の蓄音機にふと眼を遣った。

…そして、再び首を巡らす。
「…和葉様、ひとつお願いがございます」
「なに?八雲」

深い瑠璃色の瞳が和葉を…和葉だけを見つめる。
「…私と、ワルツを踊っていただけませんか?」






/281ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ