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エメラルドの鎮魂歌
第8章 エメラルドの鎮魂歌 〜終わりの序曲〜
「…久しぶりだね、瑞葉くん。…そして八雲くん。
…ああ、君たちは少しも変わってはいないな。
奇跡のように美しい…!
特に瑞葉くん…。
この陰惨で殺伐とした敗戦国 日本において、奇跡のように華やかに咲き誇る稀有な花だよ」

…その男こそ、戦時中と少しも変わらぬ姿で二人の前に現れた。
…青山史郎…その人であった。

彼は、長躯で筋肉質な身体に上質な舶来品と思しきスーツに身を包み、磨き上げられた高価そうな革靴を履いていた。
ほんの少しだけ白いものが混じった豊かな髪をきちんと撫で付け、相変わらず人好きのする甘い笑みを浮かべて握手を求めてきた。

「…お久しぶりです。青山様。お元気そうで何よりです」
おずおずと…しかし懐かしそうに握り返したその手を包み込まれる。
「君もね。…蜂蜜色の美しい髪に高貴なエメラルドの瞳…。お伽話の麗しい姫君のようだ…。
…藍がとても逢いたがっていたよ。
今日は大学の卒業試験で来られなくて…残念がっていた」
「…藍さんもお元気ですか…良かった…」
ほっと安堵のため息を吐く。

…はしたない痴態を晒し…それでも尚、瑞葉を慕い続けてくれた…。
あの愛情の籠った瑞葉の絵は宝物だ…。

…あれから、五年の月日が流れていた…。

さぞかし、清潔に端麗に成長したことだろう…。
瑞葉は、かつての藍の面影を思い浮かべる。
少し、胸が締め付けられた。

八雲が熱い珈琲を勧める。
三月とはいえ、軽井沢の山奥はまだ真冬のような寒さを湛えている。
客間の暖炉の薪は勢い良く橙色の火花を爆ぜていた。

「青山様のお屋敷や画廊はご無事でしたか?」
空襲が激しくなり敗戦を経て、音信が途絶えていたので、二人は案じていたのだ。

「お陰様で自宅と画廊は難を逃れたよ。
…久我山のお屋敷も空襲を受けずに済んだご様子だよ。ご家族もご息災そうだ」
「…そうですか…。良かった…」
瑞葉は胸を撫で下ろす。
和葉の訃報以来、敗戦の慌ただしさで篠宮家との微かな連絡も途絶えていたのだ。

青山は瑞葉を見つめると、まるで親しい肉親のように口を開いた。
「…今日、こちらを伺ったのは他でもない。
私と藍のパリ行きが決まってね。
来月の四月末に日本を発つことになったのだ」

瑞葉の長い睫毛が震え、大きなエメラルドの瞳が微かに揺れた。










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