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エメラルドの鎮魂歌
第8章 エメラルドの鎮魂歌 〜終わりの序曲〜
「今の日本では、画廊経営も成り立たない。
日本が美術を愛でたり収集する余裕ができるまで、まだまだ時間を要するだろう。
幸い、漸く民間人の渡航の制限も解かれた。
私はまたパリで商売をすることにしたよ。
…それに、藍のパリのコンセルバトワールへの入学が決まってね。
パリは芸術の都だ。
藍には豊かな環境とあらゆるチャンスを与えてやりたいのだよ」
…青山と藍が日本を去る…。
藍が、いなくなってしまう…。

瞬間、瑞葉の胸の内に隙間風のような冷たい風が吹き荒んだ。
けれど、直ぐに笑顔を作る。
二人の門出を祝福するために…。
「…そうですか。それはおめでとうございます。藍さんにとっては何よりの選択ですね」

青山が不意に、瑞葉の手を取った。
「…もう一つの話をしに、私はここに来たのだよ。
瑞葉くん、私達と一緒にパリに行ってみないか?」
握りしめられた瑞葉の白い手がびくりと震えた。
新しい珈琲をカップに注ぐ八雲の手が止まる。

「…え?」
「実はこれは藍からの願いなのだ。
戦争が終わったら、瑞葉くんを連れてパリに行きたい。だから力を貸してくれ…と、ずっと請われていたのだよ」
「…藍さんが…」

四年前…、初めて会った時のあの言葉が蘇る…。

…「瑞葉、戦争が終わったら俺と一緒にパリに行こうよ。
あんたに色々な世界を見せたい。
あんたを色んなものから解放して自由にしてやりたいんだ」

…八雲の深い瑠璃色の眼差しと眼が合った。
その表情は静かで、穏やかですらあった。

青山が諭すように語りかけた。
「…君は藍と縁つづきでもある。
それに…私は君の人生にとても関心を持っている。
君が望むなら、私は新しい人生の選択の手伝いを喜んでしてあげたいと思っているのだよ」
…けれど…と、穏やかだが有無を言わせぬ一言が続いた。
「…それには八雲くんからの卒業が、条件だ…」

八雲の美しい彫像のような貌には、静かなる諦観めいた表情しか浮かんではいなかった。

「君が決めるのだ。瑞葉くん。
君の人生は君のものなのだよ」
背中を押すような、青山の言葉…。

…暖炉の薪の爆ぜる音だけが暫く、その場を支配した。
瑞葉は、ゆっくりとその形の良い唇を開いた。
「…青山様、僕は…」


…その時、玄関の呼び鈴が再びの来訪者を静かに告げた。






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