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エメラルドの鎮魂歌
第13章 エメラルドの鎮魂歌 〜エピローグ〜
ブーローニュの森近くに邸宅を構えるヴァレリー男爵家の夜会は、聞きしに勝る華やかなものであった。

パリ中の上流階級の紳士、淑女が正装の黒燕尾服、或いはイブニングドレスに身を包み、紳士は上等な葉巻をくゆらせ、婦人たちは妙なる香水の香りを漂わせ、笑いさざめいていた。

貴族制度がとっくに廃止された国とは思えないほどに富裕な人々が集まり談笑し、舞踏室ではワルツが踊られていたのだ。

この中にあって東洋人は青山と藍くらいなものだが、青山は西洋人にも引けを取らぬほどの堂々とした体躯に上質な黒燕尾服を身につけ、巧みなフランス語を操り人々の中心に存在していた。

彫りの深い端正な貌立ちに、少年時代から欧州で過ごしていた洗練された雰囲気とエスプリは青山に犯しがたいオーラすら与えていたのだ。

東洋人を軽んじる傾向にあるフランス人が青山には敬意を払い、我先に交流しようとしている様は、藍から見ても誇らしいものであった。

…一方、藍は社交界デビューしたばかりの若い令嬢たちの熱い視線を一身に浴びていた。
けれど絵のこと以外には全く興味を持たない藍は、ほかの青年のように令嬢たちにワルツを申し込むこともなく、手持ち無沙汰にワインの杯を空けていた。

そこに青山が美しい母娘を伴い現れた。
「藍、紹介しよう。こちらはロシャス夫人とご令嬢のジュヌビエーヌさんだ。
ワルツのお相手をさせていただきなさい」
青山がにこやかに促した。

藍がややむっとするのを目配せしながら、青山は言葉を重ねる。
「ジュヌビエーヌさんは藍の絵をとても気に入って下さり、先日二枚お買い上げ下さったのだよ。
ぜひ、お相手を…」
薔薇色の頬をした清楚な令嬢ははずかしそうに俯いた。

青山は公私混同をしない。
藍の絵のパトロンになってくれそうな富豪や好事家は積極的に藍と引き会わせる。
…藍の美貌に一目惚れし、好意を抱く娘たちにもそれは例外ではなかった。

…悪趣味め。
今夜、帰ったら覚えてろ。

藍は分からぬように青山を睨みつけ、すぐに笑みを作り令嬢に手を差し伸べた。
「光栄です。ジュヌビエーヌさん。
では、舞踏室へ参りましょう」
目を輝かせながらオリエンタルな美貌の青年に手を引かれ去る娘を、青山は余裕の笑みで見送っていた。

…本当に食えないオヤジだ。
藍は目の端で、青山を睨みつけた。




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