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エメラルドの鎮魂歌
第14章 海に睡るエメラルド 〜エメラルドの鎮魂歌 SS 〜
海風は凪ていた。
船上の甲板に立ち、八雲は漆黒の海の水面を見つめていた。

…漸く日本を発つことが出来た…。
闇のブローカーに依頼した外国船に偽名で乗り込み、船が埠頭を離れるまでは流石に緊張した。
追っ手があるとは思わなかったが、万が一ということがある。

瑞葉はまだ薬の作用が深く、眠っている。
途中潜りの医者に診せたが、眠りが深いだけで問題はないと言われ、安心した。

…目を覚まされたら、何から話そう…。
八雲は一人思い倦ねていた。

…瑞葉様は驚かれるだろうな…。
それとも…。

…お怒りになるだろうか…。

八雲は、ふっと苦笑いを漏らす。
こんなにも自分の心を右往左往させるのは、瑞葉だけだからだ。

…私は、永遠にあの方に囚われているのだ。

空と海の境が溶けだしている水平線の彼方を見つめる。

…あの方を私が身も心も支配しているように見えて、その実、支配されているのは私自身なのだ。

…欺いても…何もかも燃やし尽くしても、それでも尚、手放すことなどできなかった…。
美しく穢れなく…けれども例えようもなく淫らで妖しい私のファム・ファタール…。

八雲は、船室の寝台に睡る瑞葉に想いを馳せた。
…透き通るような白皙の美貌…蜂蜜色の艶やかな髪…薔薇色の柔らかな唇…その唇から漏れる甘い吐息…。
静かに睡るその姿は、さながらオーロラ姫のようだった。

エメラルドの美しい瞳は、未だ閉じられたままだ。
…美しい私の永遠の恋人…。
貴方を睡りから覚ますのは、私だけだ…。


静かな子守唄のように打ち寄せる波の音に耳を傾け、やがて八雲はゆっくりと甲板を後にした。






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