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エメラルドの鎮魂歌
第3章 禁断の愛の果実
甲高い悲鳴のような小さな声が、瑞葉から漏れた。
和葉がはっと瑞葉を振り返ると、兄は透き通るように白い貌を更に蒼ざめさせ、両手で唇を覆っていた。
美しいエメラルドの瞳は張り裂けそうに見開かれ、その瞳からは今にも透明な涙が溢れ落ちそうであった。

「兄様…」
和葉が手を差し伸べるより前に、八雲が音もなく瑞葉に近づき、崩れ落ちそうな瑞葉を椅子からしなやかに抱き上げた。
「…八雲…八雲…」
胸が痛くなりそうな悲痛な声が、瑞葉から漏れる。

「瑞葉様、ご心配はいりません。
…お部屋に戻りましょう」
優しい…瑞葉をひたすら安心させるような優しい声が響いた。
瑞葉が八雲の胸に縋り付く。
やがて幼子のように貌を埋め、声を押し殺し泣き出した。
八雲は恋人を抱くように、愛おしげにその髪を撫でる。
こんな場面なのに余りに美しい二人に、使用人たちの視線は釘付けになる。

瑞葉を抱いたままダイニングルームを立ち去ろうとする八雲に、薫子の鋭い叱責の声が飛ぶ。
「お待ちなさい、八雲。
貴方は行ってはなりません。これは命令です」

八雲は脚を止め、静かに返答をした。
「お叱りは後でいくらでも受けます。
今は、瑞葉様のお心を落ち着かせることが私の大事です」
そうして、八雲は女主人に一礼をすると何の臆することなく、毅然としてダイニングルームを後にしたのだった。





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