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エメラルドの鎮魂歌
第4章 美しき森の虜囚
八雲は、静かに口を開いた。
「恐れながら、青山様を見込んでのお願いでございます。
その少年を、時折偵察していただきたいのです」
そう言いながら、八雲は上着の隠しから一葉の写真を取り出し、青山に差し出した。

青山はそれを手に取り、視線を落とすなりに声を上げた。
「これはまた…美しい少年だな…!」
セピア色の写真の中には、やや姸のある眼差しをした十五歳くらいの端正な貌をした少年がカメラを睨むようにして写っていた。
やや日本人離れした目鼻立ちは、篠宮征一郎に似ているところも感じられる。
瑞葉や和葉のように優美な雰囲気はなく、小さな野獣めいた美しい野蛮さすら感じる少年だった。

「…伊澤藍と申します。
今年、十五歳…和葉様と同い年です。
先代は薫子様と別居されておりましたので、この少年の母親を別宅に囲い、そこでお亡くなりになるまで過ごされておりました。
先代が亡くなられてからは親子で浅草長屋に移り住んでいたようですが、相続争いを危惧された薫子様の差し金の手の者が子どもを殺めようとし、それを母親が庇い子どもを逃し、行方知れずとなっていました。
その行方が、最近になって漸く判明したのです」

葉巻の煙を吐きながら、首を振る。
「…大変な悲劇だ。しかし、まさに母は強し…だな。
で?彼はどこにいるのだ?」
「洗足池近くにあります私設の孤児院です。
嵯峨公爵の末のご子息がそこの院長をされていて、彼を保護しておりました。
浅草で窃盗を繰り返し、犯罪に巻き込まれそうになっていたところを嵯峨氏が救い出し、然るべき教育を受けさせ更正させようと目を掛けておられるようです」

青山は目を細めながら、八雲を見上げた。
「嵯峨公爵のご子息なら存じ上げている。お若いながら大層情熱家で慈善家だと…。
彼は良い方に拾われて良かったな。
…で?なぜ私が彼を偵察しなくてはならないのだ?」


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