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エメラルドの鎮魂歌
第4章 美しき森の虜囚
「…私は彼に関して、薫子様と取引いたしました。
しかし、薫子様のことです。いつまたその少年に手を出さないとも限りません。
何しろ彼は薫子様の犯行の貴重な証人です。
口封じしたいのは山々でしょう。
ですから、その少年の安全を確保したいのです」

葉巻から唇を離し、青山は眉を跳ね上げた。
「意外だな。君が瑞葉くん以外を気にかけるなど…」
八雲は薄く微笑んだ。
「いえ。彼は私の持つ切り札の一つですからね。
…いざという時に手札として使えないと困りますので。
…それに…彼の存在は今後、瑞葉様のお立場にどんな影響を与えるか未確定です。
味方となるのか…はたまた敵となるのか…。
よく見定めねばなりません。
生憎私は軽井沢に移ってしまいましたので、彼を頻繁に見張るわけにはまいりません」

青山は眼を眇めた。
「…驚いたな。君はその少年を人質のように捉えているのか?
そして、その彼をこの私に監視しろと?
私が受けると思うのか?…そんな悪事の片棒を担ぐようなことを」

八雲は不意ににっこりと笑った。
「青山様はスリリングなことがお好きでしょう?
わざわざ瑞葉様のお部屋まで忍び込んでいらした方です。
篠宮伯爵家の不遇な隠し子…悲劇の事件…社交界の女帝の犯罪…。
…しかも、彼は大層美しい少年です。
貴方は美しいものには目がない筈です。
貴方の食指が動かぬ筈はありません」

客間に青山の愉快そうな笑い声が響き渡る。
「全く!何という悪徳執事だ!人を何だと思っているのかね。
…だが…分かったよ。
私は別の意味で、彼に興味が出てきた。
引き受けようじゃないか。その少年…伊澤藍くんの偵察を。
…だが私は無粋な真似は嫌いだ。
私のやり方で、藍くんを見守らせてもらう」

八雲が取って付けたような晴れやかな笑顔を見せた。
「青山様のご好意に心より感謝申し上げます。
…ブランデーを召し上がりますか?
先代よりの取って置きの舶来品がございます」
青山はやや肉惑的な唇を歪め、悪戯めいて笑った。
「大いに結構だね。
…君の優雅なる悪事に乾杯しよう」


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