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卒業祝い
第3章 転
信司は、彼女に横から自分の体をぴたっと預け、耳元で再び、おふろ~、と語尾を引き上げて言った。

ユキの身体を揺すりながら、ねぇ~、と何度も繰り返す。

「そんな甘えた声で言ってもだめ」

「なんで?」

「なんでも。だめなものは、だめなの」

すると、信司はすっと彼女から身体を離し、ベッドに仰向けになった。

「あーあ。楽しみにしてたのになあ。一緒にお風呂入るのを。こんなに拒否られるなんてさ」

もちろん、身体の関係を彼らはすでに終えている。

「一緒に入りたくないなんて、もういいよ」

信司はベッドの端に寄ると、身体を横にし膝を折り曲げて、自分で右腕を枕の格好にした。

この拗ねの姿勢は、本気ではない。

信司は、眼球をきょろきょろとめまぐるしく動かしていた。

背後の彼女の反応を見ているのが明らかだ。




しばらくユキは黙っていた。

背中を向けた信司からは、拗ねのオーラが確かに放たれていた。

でも、ユキにはわかる。

本気の拗ねではなく、確実にユキが折れて、誘いに乗ると確信している背中だった。

それが少し癪に障る。

もちろん信司とお風呂を共にすることが嫌なわけじゃない。

ただ、今日、白昼から、信司の自宅で、初めて、お風呂に入るには、あまりに突然すぎて、心の準備が間に合わない。

そんなユキの逡巡を信司は感じていながら、ユキに求めてくる。

ただ、外にいるときは、恥ずかしさや信司の素直ないやらしさに、開いた口が塞がらない思いが強かった。

けれども、いま自分は、それほどそう感じなくなっている。

いったい、この信司マジックはなんなの?


「そんなに入りたいの?・・・」

その言葉に反応した信司は、すぐさまユキを振り返って、首を縦に何度も振る。

「じゃあ、えっちなことしない?お風呂で」

「うん、しない」

「絶対ウソ」

「・・・触るくらいならいいでしょ?ね?」

「触るって、やらしい言い方だなあ」

「だって、お風呂に入って、身体を触らないほうが不自然でしょ。触れないように一緒にお風呂に入れる?」

「うーん。まあ、そうだけど。なんかなあ・・・わかった」
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