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約束 ~禁断の恋人~
第2章 決意
「ずっと海の傍に付いてて、マンションへは戻ってませんから」
すらすらと嘘をつける自分に、内心で驚く。
Dr.小早川は「そうだよな」とだけ言って、また無言になってしまう。
Dr.として人間の死を目の当たりにするのは、珍しくない。どれだけ医療が発達しようと、生き物である以上はいつか死を迎える。
そんなことを、一番近くで見てきた。大病院となると、直接でなくても日常茶飯事と言ってもいいほど。
Dr.小早川の視線を感じながら、壁際のメインコンピューターでドライの学習記録をロードした。
「暫く休みを取ったらどうだ? ここの所、ずっと根詰めてただろう?」
気遣ってくれるのが嬉しい。
能力だけでなく、Dr.小早川は患者や医師からの信頼も厚い。
元々脳神経外科長だったが、それがあって研究所のリーダーとなった。
「何かしてる方が、気が紛れるんです……」
「そうか。ちゃんと食事してるのか? 食べないと、持たないぞ。お前は、普段から食べないからな」
画面を覗き込まれ、わざと無碍(むげ)な溜息を聞かせる。
「すみません。一人に、なりたいんですけど……」
研究所に当直はいらない。
残ったり徹夜したりするのは、自由な判断から。
「あんまり無理するなよ。そのうち、見舞いに行かせてくれ」
「はい。ありがとうございます……」
「じゃあ……」
ソファーに掛けてあった上着を掴むと、Dr.小早川は部屋を出て行った。
遠ざかって行く足音を確かめてから、部屋の奥の棚を開ける。
出入りのチェックが厳しいだけに、室内の物には殆ど鍵が掛かっていない。
棚から出したチップを特殊なディスクに填め込み、指紋認証をして、メインコンピーターでロードする。これで12時間後には、チップが作動するシステム。
後必要な物は、チップを覆うための軟性シリコンと、カリウム液と止血剤と……。
必要な物を思い出しながら、棚のあちこちからその道具を出した。