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約束 ~禁断の恋人~
第3章 倒錯
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「トモ、バターがもう無いよ」
キッチンで冷蔵庫を覗きながら、カイが言う。
「注文するから、他に必要な物もメモしといて?」
無表情で頷くと、カイは冷蔵庫の中を見ながら、横のホワイトボードに色々と書き込んでいる。
移植手術をしてから5日。
僕がカイに学習として与えた物は、海の部屋にあった料理とバイクの本だけ。
彼に移植した人工知能のチップには、成人男性としての一般常識。そして大学卒業程度の学力に加え、過去100年間の時事も記録されている。
語学は、日本語、英語、ドイツ語、フランス語、中国語などの辞書が入っているため、殆どの言語の読み書きや会話も可能。更に、新しい知識を記憶するための膨大なメモリーもある。
そのメモリーは、物心ついてから平均寿命までの全ての出来事を覚えても余裕なほど。
カイは今そのメモリーに、料理とバイクについてインプットしているという意味。
まるで、高性能なコンピューター。それでいて、見た目は普通の人間。
人間に似せたヒューマノイドの発達も凄いが、“Z”には敵わない。
逆に言えば、“Z”には寿命がある。
それは人間と同じで、勿論見た目も老化していく。
ただ感情が無く、それは研究段階。
感情を持たせるのは、子供の情操教育と同じ。だから大人の“Z”には心理学や哲学書が良い結果が出ていたが、僕は敢えてそれらを与えなかった。
カイに、海になって欲しかったから……。
同じ知識を身に着ければ、少しでも海に近付くと思ったから……。
僕は一日の殆どを、キッチンが見えるリビングで過ごしていた。
キッチンで料理の学習をするカイを眺めながら、ただぼんやりと時間を過ごす。
研究所では、あれほど忙しくしていたのに。寝る時間さえ、“Z”の研究に費やしていた。
カイが手際よく料理をしている。
でも僕が欲しいのは、僕を愛してくれる海だ。
僕にDr.として接するだけのカイを見ているのは、つらくもあった。