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約束 ~禁断の恋人~
第3章  倒錯


 永遠に叶わないだろう、僕の片想い。
 もう彼に愛情から抱きしめられることが無いと思うと、胸が痛む。
 抱きしめて欲しいと言えば、カイはそうするだろう。でもそれは、カイは“Z”で僕がDr.だから。
 絶対服従する相手にそうされても、哀しくなる。
 惨めになるだけ……。
 キッチンで生野菜を洗っているカイを見ながら、僕は溜息をつくしかなかった。



 夕食を終えてカイに先にシャワーを使うよう言ってから自室へ戻ると、パソコンにDr.小早川からのメールが来ている。研究所の、メインコンピュータからの物。
 内容は今日の定例会議の内容と、三体目の“Z”、ドライの学習記録。それと、僕と海を気遣う個人的なメッセージ。
 マンションへ戻ってこれを読んだら、連絡が欲しいという旨も。
 海の移植手術のための道具を取りに行って以来、研究所へは行っていない。Dr.小早川はその時「見舞いに行きたい」と言っていたが、法律上の親である僕の許可が無ければ、容態を確認するDr.やナース以外は特別室に入れない。
 それ以外に何も言って来ないのは、僕が持ち出した物に気付いていないからだろう。
 備品は膨大な数で、多少減っても気付かないはず。チップの確認も、移植の時だけ。
 移植は年に一体あるかないかだし、この間三体目を移植したばかり。だから気付くのに、一年近くはかかるかもしれない。
 議事録とドライの学習記録をプリントアウトし、当たり障りない返信をしておいた。暫く出勤しないとの旨を添えて。
 ノックの音がして、見ていた用紙から顔を上げた。
「はい」
 ドアが開いて、カイが入ってくる。
「風呂、空いたよ」
「うん。ありがとう……」
 カイを見つめてしまった。
 濡れた髪が顔に掛かり、男らしい表情が艶っぽくも見える。
 自分の鼓動が速まるのが分かった。
 顔が熱くなるのを感じる。
「海……」
 逞しい体にしがみついていた。
 僕の海じゃないのは分かっている。でも目の前にいる“カイ”は、どう見ても海なんだ……。
「トモ……。具合悪い?」


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