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約束 ~禁断の恋人~
第6章  異変



 フィーアはこの数日間、今までのような元気が無い。相変わらず、人間になら些細なミスもしている。
 レポートと称して、僕は夕食後に話を聞いてみることにした。出来るだけ穏やかに、刺激しないよう心がけながら。
「この前行った、調理部はどうだった?」
「みんなと一緒に、食事を、作った……。たくさん……」
 いつものフィーアと、答えは同じ。
 見たこと聞いたこと、したことは正確に答えるが、感想は特に無い。
「みんなに会えて良かったね」
「違う……」
 また、同じ言葉が出た。
 何が“違う”というのだろう。
 場所もメンバーも、したことだって変わりなかったはず。だからフィーアだって、思い出したように作業をしていたはずだ。
 あの時のフィーアは、生き生きとしていたのに。
「何が、違うの?」
 訊いた途端、フィーアが拳でテーブルを叩いた。
「違う! オレは!」
「フィーア……」
 今まで、フィーアが暴力的になるなんて無かったのに。
 海だって温厚で、人と争うのを嫌う。
 もしも海の力で暴れられたら、僕には抑えようがない。
「フィーア。落ち着いて」
「Dr.トモ……」
 フィーアも苦しいのだろう。
 自分の思いを上手く口に出来ない焦れったさ。そんなものを感じているのかもしれない。
 頭脳の面では申し分ない“Z”。それでも、感情を伴うこととなると処理は難しい。
 巷に溢れているヒューマノイドは、決められた内容を熟すだけ。ある程度の応用しか利かない。
 僕達が作りたいのは、そんな物とは違う。
 でも感情を持つ“Z”は、やはり無理なのだろうか……。
「フィーア。もういいから、休んで……」
「ん。おやすみ。Dr.トモ……」
 そう言うと、彼は自室へ行ってしまった。


 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆


 昨夜は溜まっていたレポートを書き上げたり、それをDr.小早川と父親へ送信したり。気分転換に、書類の整理までしてしまった。
 シャワールームを出ると、皿の割れる音。
 それも一度じゃない。
 僕は慌ててキッチンへ行った。



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