この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
約束 ~禁断の恋人~
第6章 異変
「フィーア……?」
キッチンでは、フィーアが壁に皿を投げつけている。
その合間に聞こえるのは、「違う……」という言葉。
また、違う……。
フィーアの様子は、何かに当たっているよう。
つらいことがあるのか。
苦しいことを上手く言葉に出来なくて、つらいのか。
僕には分からない。
ガシャンと皿が割れる度、何か別のものが壊れていく気がした。
フィーアになってから、上手くやっていたのに。
僕が、調理部へ連れて行ったせいだろうか。
でも、その前から彼は少しおかしかった。
調理部のメンバーの名前を出したのもフィーア。
僕を綺麗だと言ったりして、海の片鱗(へんりん)を見せていた。
「フィーア! 動かないで!」
叫ぶと、彼が皿を持った手を止める。
力では抑えつけられない。
それに、フィーアの足下にはたくさんの破片が散らばっている。
「Dr.トモ。おはよう……」
「おはよう。動かないで? そのまま。ちょっと待ってて」
厚手のバスマットを何枚か持って来て、フィーアが安全にリビングまで来られるように敷いた。
手に持っていた皿をその場へ置くように言い、フィーアをソファーに座らせる。
「フィーア……」
顔を見ると、頬に小さな切り傷があった。
そこを消毒だけして、彼の前に座る。
「どうしたの?」
「違う……」
キッチンを振り返ったが、調理は終わっていたようだ。
テーブルには、朝食の準備が整っている。
今までは、僕の問いに対して「違う……」を繰り返していた。
彼は一人だったのに。
何か考えだし、一人で暴走したのだろう。
バグ。
手術ミス。
そんな言葉が浮かんだが、以前はしっかりしていた。
移植に関してのミスなら、初めから何かあるだろう。
「フィーア……?」
「違う……」
一日何十回、この言葉を聞いたか。
研究所のドライがそうだったら、Dr.小早川はどうするだろう。
訊きたくても訊けない。