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わがままな氷上の貴公子
第9章 ファイナル
演技内容は事前に提出するが、別に変えても減点にはならない。
敢えて、3トゥーループだけにした。
綺麗な踏み切りと着地だったから、ミスだとは思われないだろう。
次は、予定通りの3アクセル。
完璧なジャンプだった。
中央へ戻り、フライングコンビネーションスピン。
ブレも殆どなく、綺麗だったはず。
手足を動かしながら勢いをつけ、3フリップ。
本当はここで三連続の予定だったが、単独ジャンプを持って来た。
ここまでミスはない。
フライングシットスピンへ繋ぎ、観客の拍手を聞いていた。
全てがはっきり聞こえたり見えたりするのは、リラックスしているせい。緊張すれば焦り、何も分からなくなってしまう。
鈴鹿の前を通った時、真剣な表情が目に入った。
付き合いの長いコーチだ。オレの決意に、気付いているのかもしれない。
表情を作るのも忘れず、そのまま演技を進めた。
本当の構成は、4回転三つを全て前半で跳ぶ。だが、それでは納得がいかなかった。
男子のフリーでは、4回転を複数跳ぶのが当たり前。
そのうちコンビネーションにしていいのは三回までで、三連続は一度だけ。
足りなければ大幅な、多くても減点材料になってしまう。そして、同じジャンプは続けて行えない。
途中でミスがあれば、仕方なくジャンプを入れ替えることもある。
でも今回のオレは、それとは違った。
初めからヤル気。
あいつの。潤の前で、最高の演技をしてやる。
そして、日本人一位を目指す。
ここからが勝負だ。ジャンプは後三つ。その三つは、基礎点が1.1倍
たった1.1倍といっても、10点なら11点になるのは大きい。
今まではここまで来ると疲労を感じ始めるが、前半に4回転が少ないせいもあり今日は行ける。
前半で終える予定だった三連続を、ここへ持ってきた。
いつもよりは、体が軽い。
行ける!
4回転トウループ、1オイラー、3フリップのコンビネーション。
着地も決まると、観客からの拍手と歓声が響く。
本番前に曲を聴きながら考えていたのは、勝てるジャンプ構成だ。
やるしかない。
そう決めていた。