この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
わがままな氷上の貴公子
第9章 ファイナル
そのうち潤まで“ママさん”と呼び、母親も喜んでいる。
溜息をつきながら、温野菜と少しのおかずを食べた。
「ごちそうさま……」
「悠斗はもう食べないの?」
母親は驚いているが、潤と比べるからだろう。
「疲れたから、風呂に入って休むよ」
「ママ、この後出なくちゃいけないの。どこにいても、悠斗のこと見てるから」
「ん……」
それだけでいい。
フィギュアを続けるには、色々と迷惑もかけている。
初めは幼くて分からなかったが、この年齢になれば理解出来た。
靴とエッジだけでも、20万は下らない。それも、年に一足だけじゃ済まない。リンク使用料。それにコーチや振付師に音楽作成。大会の衣装だって特注品だ。細かいことを合わせれば、もっと金がかかるのが現実。複数のスポンサーがいても、全てを賄えるわけじゃない。
年間で数千万単位。そのせいで、実力があっても途中で泣く泣く諦めるヤツもいるのが現実だ。
母親はそのために働いているわけじゃないが、オレは恵まれている。
父親だって、遠くからオレを見ているはず。それが励みになる。
和子さんも、家族の一員だ。
後はこいつ……。
馬鹿で鈍感で、大飯ぐらい。デリカシーもなくて、でかいのだけが取り柄で……。
和子さんが出してくれた、紅茶を飲みながら考える。
オレは今日、潤に最高の演技を見せたいと思った。大きな声援の中で、潤の声だけははっきりと分かった。
何だか悔しい……。
潤の方が、オレを好きなのに。
先に好きになったのに……。
複雑な思いのせいで、紅茶の味も分からなかった。
全部潤のせいだ。
悩むのも、苦しいのも、悔しいのも。
いい滑りが、出来たのも……。
母親と挨拶を交わしてから、オレは部屋へ行った。