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わがままな氷上の貴公子
第10章 意地
湯船に浸かり、目を瞑って上を向く。
最初に誘ったのはオレだから仕方ないとしても、その後に何か言ってくれてもいいのに。
心配してわざわざ鹿児島の病院まで行ったりして、オレの方があいつに……惚れてるみたいじゃないかっ!
腹が立ってきた。
いつかあいつに、ちゃんと言わせてやる!
それまで、セックスはお預けだ。
全裸のまま部屋へ出ると、潤がベッドへ座っている。
「何してんだよ……」
「ママさん、帰っちゃったよ。和子さんも」
「じゃあ、お前も帰れよ。今日は、凄く、疲れてるんだからな」
予防線を張ったが、こいつが気付くだろうか?
「悠ちゃん……」
やっぱり気付いてない!
近寄ってきた潤に抱きかかえられ、ベッドへ降ろされた。
「ヤらないぞ……」
「えー。どうしてえ?」
こいつに、オレを労(いた)わる気はないのか?
ファイナルのフリーで全力を出し切った日に、セックスするヤツは普通いないだろう? こっちから誘ったなら別だが。
「今日ヤったら、ウチに出入り禁止だからなっ!」
「えー……」
しょげるなよ。オレが虐めてるみたいじゃないか。正論を言ってるだけなのに。
「触るなっ!」
言ってからパジャマを着て、髪を乾かし始めた。
ベッドへ座った潤が何か言っているが、ドライヤーの音で聞こえない。ずっとそのままでいたかったが、あまりドライヤーを使うと自慢の髪が痛む。
仕方なくドライヤーを止め、潤から離れてベッドへ座った。
「お前さあ……」
「なあに?」
ニコニコされて、溜息をつく。
「二階のゲストルームで寝ろよ。今日はゆっくり眠りたいんだよ。明日もテレビとかあるし」
鈴鹿から、CMのオファーも数件聞いていた。CMは拘束時間が長くて面倒だが、スポンサーだから仕方ない。
「今日の悠ちゃん、凄かったね」
オレはいつも凄いんだよっ!
「いつもより綺麗だったし、スケートも凄かったし、一位だし」
だから?
一位は分かっても、お前にフィギュアの凄さなんて分からないだろう?
優雅に滑っているが、内心では色々なことを考える。苦しい顔も見せられない。
それが、採点競技の宿命。