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わがままな氷上の貴公子
第10章 意地
「あちらのご家族にとっても、長男の初孫の男の子だったので、親権はあちらに。息子にとって、私は、病気で死んだことになっています……」
想像でしかないが、つらいのは分かる。
「だから、悠斗さんが生まれた時は、特に嬉しくて。自分の息子だと思って、お世話してきました」
物心ついた頃、オレも和子さんが母親だと思っていた。
本当の母親にも愛情はあったが、“ママ”という別の扱いで……。
「ですから。潤くんとについても、最初から感じてましたよ」
さすが敏腕ハウスキーパー……。
でもそれは、ハウスキーパーとしてじゃないだろう。
自分の息子だと思って育ててくれた、“母親”の感。
「悠斗さんの性格なら、潤くんみたいな人がいいんですよ。怒鳴っても、当たっても、いつも傍にいてくれる人が」
そこまでバレてる……。
「女性じゃ、まず無理だと思いますよ?」
トドメまで……。
「悠斗さんは、本当は優しいのに。それを表に出すのが、凄く下手ですからね」
何も言えなってしまう。
シーツの件での恥ずかしさもあったが、それ以上に、和子さんはオレを分かってくれていた。
意地っ張りでわがままなのは、自分でも分かっている。
そうやって、防御しているつもりだった。
本当のオレは、弱くて小心者。それが嫌で、虚勢を張るしかなかったから。そうじゃないと、スケートなんてやっていられなかったから。
「立派なご家庭ですけど、継ぐような稼業じゃありませんし。いいんじゃないですか? お兄様はご結婚なさってるし」
そんな先のことまで考えていなかったが、何となくホッとした。
今、潤がいればいい。
「潤くんには内緒ですけど。前の人達の方が、見かけだけはよかったですね」
トドメのトドメ……。
和子さんは笑っているだけ。
前に付き合ったヤツらが家に来たことはあったが、ここでセックスはしていなかったのに。
でも、気持ちは楽になれた。
今の方が、いい滑りが出来そうな気がする。
テレビなどで、“美少年フィギュアスケーターの望月悠斗”を演じるのはいい。それも、演技の一つだ。