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わがままな氷上の貴公子
第10章 意地
家へ帰れば、オレはただの16歳の高校生。
それでいい。
インターフォンが鳴り、和子さんが出る。
「はい……。悠斗さん、車が来ましたよ」
「ん……」
荷物を持ち、和子さんに見送られて家を出た。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「望月! そこはもっと丁寧に!」
オリンピックが目の前となると、コーチの鈴鹿もいつも以上に熱が入ってくる。
あれから組み直したプログラムは、前半にもう一つ4回転を増やしたもの。
合計で四つの4回転を跳ぶなんて、さすがにきつい。
本番で回転不足だと分かれば、どこかで4回転を回避することにもなる。
賭け……。
オレも鈴鹿も、目指しているのは選考会の先。
オリンピックでの表彰台だ。
大きすぎる野望だとは分かっている。それでも、そこを目指したかった。
チャレンジ出来るのは、今年だけかもしれない。
四年後のオレは、どうなってるか分からない……。
「悠ちゃんっ!!」
何とか最後の着地をした時、潤の声。
鈴鹿に怒られている。
ここは、関係者以外立ち入り禁止。エレベーターの中にも書いてあるし、オレだって言っておいたのに。
「休憩させてください」
リンクサイドへ行き、息を整えながら言った。
「そうだな。一時間。その間に、食事もしてこいよ」
「はい」
すぐに靴へ履き替え、潤と一緒に一階の喫茶店へ行く。
「来るなって言ったろ……」
「だって……」
お前はコドモかっ!
元々、鶏頭だしな……。
オレはピラフ。潤はカレーの大盛りを食べながら話していた。
この時期は、炭水化物も適度に摂らないと体力が持たない。練習の合間には、チョコレートを摘まむこともある。
それでも、激しい練習のせいで太ることはなかった。
和子さんから潤とのことを言われた日、和子さんは部屋に入って全裸の潤を起こしたそうだ。
ドライヤーを使っても起きないヤツだから、ノックや外からの言葉じゃ起きないだろうな。
「なあ、潤」
「何?」
オレが残したピラフを食べながら、潤はニコニコしている。
「今、凄く大事な時なんだよ。あんまり会えなくても、ガマンしろよ……」
小声で言った。
「ん……」