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わがままな氷上の貴公子
第10章 意地
最近は家に帰っても食事をするだけで、殆どすぐ部屋へ行ってしまう。それだって、無駄な体力を使わないためだ。
和子さんにも言われたらしく、潤は二階のゲストルームを使っている。
「でも、もうすぐ合宿でしょ? 家にも帰って来ないんだよね?」
「ああ……」
オレだって、淋しいとは思う。
それでも、感情に流されている時じゃない。
潤の前で、恥ずかしくない演技をする。口にはしないが、それが原動力にもなっていた。
家族用のチケットはあっても、家族はそれぞれの仕事で来られないから、会場に来るのは潤と和子さんだけ。
「悠斗っ!」
振り向くと、千絵が立っている。
スランプを乗り越えたのか、明るい笑顔を見てホッとした。
「潤くんも久し振りー。元気だった?」
そう言って、潤の隣へ座わる。
クラブ内でなら、一緒にいても自然だろう。マスコミも入って来られないし。
女子は三枠あるから、千絵のオリンピック出場は殆ど決まっている。転倒しても、三人の中には入れるはずだ。
オレが紅茶を飲んでいると、千絵はオムライスを食べ出す。
やはり練習が厳しいのだろう。
「悠斗っ。一緒に、オリンピック行こう。悠斗なら、大丈夫だよ」
そんな励ましも、内心では素直に受け止められるようになった。
「ああ……」
「俺も、行きたい……」
潤の言葉に、千絵が笑い出す。
「家族用のチケットがあるじゃん。北京(ペキン)まで、応援に来てよー」
「北京て、中国の?」
お前は大学生だろっ!?
他のどこに、北京があるんだよっ!
「日本じゃないんだ……」
日本は、前回の夏季だったろ……?
「北京なら、悠斗んちが楽勝で連れてってくれるよー」
そのつもりではいるが、そんなにオレを見つめるな。穴が開きそうだ……。
「和子さんに、くっついて来いよ……」
「ほらねー」
「じゃあオレ、戻るから」
付き合っていることとセックスについてだけは誰にも話すなと、何度も潤に言い聞かせておいた。
話したら別れると言って。
「悠ちゃん。またね……」
「お互い頑張ろうねー」
潤の向かいへ移る千絵を見てから、オレはリンクへ向かった。