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わがままな氷上の貴公子
第2章 プライド
オレの正式デビューとなった年からルールが変わり、ショートプログラムでは最後の一回。フリープログロムでは最後の三回だけジャンプの基礎点が1.1倍になる。
それ以前は演技時間の後半のジャンプが全て1.1倍だったから、オレにとってはまだマシになった。
自分に持久力がないのは分かっているが、今更どうしろって言うんだ?
持久力なんて、どうすればつくんだ?
地下のジムへも通っている。それに家でだって、腹筋や背筋をしたり。いつでも走れるように、ランニングマシンも買った。
華奢なのは生まれつきだが、一般人よりは体力も持久力もある。フリープログラムの四分間は、全力疾走を続けるのと同じ。その中に技を入れ、表情も作らなければならない。
優雅に見えても、過酷な戦いだ。
「上へ行けば行くほど、完璧な選手ばかりだ。だから、一緒に頑張ろう」
真剣な表情の赤坂を見て、立ち上がった。
言いたいことは分かる。でも今の感情を抑えられなくて、ロッカールームへと向かった。
赤坂が追いかけて来なかったのは、オレをよく分かっているからだろう。
そんなことにまでイライラする。
着替えて荷物を持つと、すぐにロッカールームを出た。
一秒でも早く、この場所から去りたい。憐みの視線を向けられるなんて、今まで経験がなかったから。
エレベーターが開くと、大きな図体。
「悠ちゃん!」
嬉しそうに出てきたのは潤。
ポロシャツとジーンズに大きな鞄を肩に掛け、片手で紅茶とコーヒーの缶をわしづかみにしている。
お前だったら、体力も持久力もありそうだよな……。
でも、繊細な滑りは似合わない。アイスホッケーに、そんなの必要ないだろ?
「悠ちゃん。どうしたの?」
お前にも、オレが不機嫌なのが分かるのか?
「いつもより早いね。練習は?」
やっぱり分かってないよな……。
潤はニコニコ笑いながら話し出す。
「来たら、下に誰もいなくて。先輩に連絡したら、今日は練習試合だって」
笑ってんじゃないよ……。
「補欠だから、来なくていいって言われた。一人で練習しとけって」
だからっ! 笑ってんじゃないよっ!
「19時まで、下のリンクで一人なんだあ」